人はなぜ、歩行時に腕を振るのか?重心位置・エネルギー効率について

「歩行時の腕振りのメカニズムを知りたい」
「患者さんが歩行時に腕振りをせず、違和感があるのはなぜ?」
「正しい腕振りはどんな方法?」

など、歩行時の腕振りについて理解を深めたい理学療法士さんは多いと思います。

あなたは歩く時、「前に進みたいから最初に右足を前に出して…その時に左手を前に振り…次に…」のように、考えながら歩いていますか?

健常者において、そのように考えながら歩いている人はいないと思います。

なぜなら、人は色々な動作をして生活していますが、人の動作の中で歩行はAutomatic、つまり中枢神経が関連する半自動的な動作なのです。

歩行時の腕振りも、その半自動的な動きと解釈されます。

この記事では、歩行時の腕振りのメカニズム、腕振りの効果、正しい腕振りについてご紹介致します。

人はなぜ、歩行時に腕を振るのか?

人は歩いたり走ったりする時に、意識しなくても自然に腕を振っていますが、荷物を持つとか、ポケットに手を入れて歩くとか、実際の場面では片腕もしくは両腕を振らないで歩いていくことも多いです。

このように腕を振らなくても歩くこと自体は可能であるため、腕を振ることは必ずしも必要な動作ではないようにみえます。

しかし、腕を振ることは、歩行や走行をリズミカルにして、安定させるには欠くことの出来ない要素なのです。

ここからは、歩行時の腕振りのメカニズムを説明していきます。

腕振りは筋運動ではなく中枢神経機構によって起こる

歩行中の腕振りに関する研究によると、歩行中、腕を強制的に固定しても腕振りに関連した筋から筋活動が認められることが報告されています。

このことから、腕の振りは単なる振り子運動ではなく、歩行を円滑に執り行うため中枢神経系に組み込まれた機構の1つと考えられています。

腕振りによる重心位置について

腕振りの角度の違い(45°、60°、90°)がバランスにどのように影響するかを、重心動揺計により検討した報告があります。

その結果、腕振りを60°以上に強調することで、重心位置は変化しないことが明らかとなっています。

つまり、腕を60°以上にしっかり振って歩くことで、それ自体が外乱刺激として作用し、体幹運動が制御されるために、重心の過度な動揺が抑制されると考えられています。

すなわち、腕をしっかり振ることにより重心位置のバラツキや動揺を防ぐことができ、安定した歩行に繋がると言えます。

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腕振りは人体のエネルギー効率を上げる

腕振りの有無(1.腕振りなし、2.片手振り、3.両手振り)および3通りの腕振り様式(1.肘を伸ばす、2.肘を軽く曲げる、3.肘を強く曲げる)と、歩行速度(快速、高速、通常歩行)、歩幅、歩行率の関係を調べた研究があります。

その研究によると、速度は快速、高速、通常歩行を問わず、3.両手振りが最も速く、1.振りをなくした時が遅くなったと報告しています。

また、歩幅も同様に、3.両手振りが最も大きくなり、1.振りをなくした時が小さくなったと報告しています。

さらに腕振り様式においては、歩行速度は1.肘を伸ばす場合が遅くなり、2.肘を軽く曲げた場合と3.肘を強く曲げる場合で差はなかったと示しています。

歩行率は、3.肘を強く曲げる場合において、最も大きくなったと示しています。

つまり、腕を振らないより振るほうが、さらに両側の腕を振って肘を強く曲げて振るほうが、人体のエネルギー効率を上げると言えます。

腕振りは二足歩行にとって不可欠である

四足動物では、前肢と後肢の協調的な動作発現に、脊髄ー腰髄間を連絡する神経経路が重要な役割を果たすことが明らかになっており、この神経経路自体は人でも存在するという報告があります。

四足歩行から二足歩行に進歩した人の歩行において、腕振り運動がこの神経経路を通して下肢の運動に影響を及ぼしているものと考えられています。

つまり、四足から二足歩行へと進化した人間において、上肢と下肢の協調的な運動(すなわち歩行時の腕振り)は、神経経路としてコントロールされている不可欠なものと言えます。

腕の振りを大きくすると高齢者の歩行は安定する

腕を振ることが運動のリズムを高め、歩幅を大きく取ることを可能にします。

加齢に伴い、歩幅の減少、着地時の体幹の前傾、着地時の膝関節屈曲、着地時のつま先角度が水平面に近づく、遊脚期のつま先最大高が低いなどの傾向があります。

このような、高齢者に特徴的なすり足歩行は、つまずきやすく転倒しやすいのです。

歩行中の腕振りが歩行動作に及ぼす影響を検討した研究によると、腕振りを意識することにより、歩幅は広がり、着地時の体幹前傾は小さくなり、膝は伸び、つま先角度は大きくなり、遊脚期のつま先最大高は高くなるという結果が報告されています。

このことは、腕の振りを大きくすることで高齢者の歩行は安定し、より若年層の動作に近づくことを示しており、すり足歩行が改善され、つまずく可能性も低くなると言えます。

 → 高齢者の歩行の特徴6つと歩行障害について紹介します
 → 歩行時のクリアランス低下の原因と改善について解説!

腕振りによりランニング時の推進力が上がる

歩行だけでなく、ランニングにおいても、足の運びを補助推進するために、足の動きに協応して腕振り動作が伴います。

マラソン競技などでは、腕振り動作を改善することでパフォーマンスが向上するということも指摘されています。

正しい腕振りを心がけよう

今までご紹介してきた内容をまとめると、腕を振ることによる歩行やランニングにおいて、リズムや安定性を向上し、歩幅、歩行速度、歩行率をアップさせ、さらに高齢者の特徴であるすり足の改善にも繋がる、欠かせない動作であることが分かりました。

ここでは、最も歩行効率の良い、正しい腕振りをご紹介します。

様々な研究結果をまとめると、①60°以上(肩)振る、②肘をしっかり曲げるという2つのポイントが重要であると言えます。

「最近つまずくことが増えた」「背中が曲がってきたように感じる」などの悩みをもつ高齢者の方に、この2つのポイントを押さえた正しい腕振りを心がけるよう指導を行うことは、歩行改善に有効と言えます。

〈参考文献〉
井上伸一.歩行中の上肢の動きが歩行動作に及ぼす影響 一転倒予防の一助として一 
安藤正志.腕の振りが歩行に及ぼす影響
三枝洋喜.足踏み動作時の腕振り角度の違いによる筋活動・体幹運動・重心動揺の違い
佐藤尭彦.ヒトの歩行運動における腕振り動作の役割

まとめ

歩行時の腕振りのメカニズム、腕振りの効果、正しい腕振りをご紹介させて頂きました。

今回お伝えさせて頂いた内容は、患者さんに歩行指導をする理学療法士さんにおいて、重要なポイントになると思います。

是非、今日からの臨床活動に活かしていきましょう。

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