【歩行分析】股関節と骨盤の角度と動きを歩行周期別に紹介

歩行分析において、関節の角度変化を観察だけで把握することは困難です。

しかし、正常歩行における関節角度や動きがどのような仕組みなのかを理解しておくことで、観察がしやすくなり、歩行分析力を高めることができます。

歩行分析における関節の角度と動きについて、「運動の範囲」「発生するモーメント」「筋の活動」「機能的意義」という観察すべき4項目の重要性を説明させて頂きました。

この記事では、さらに深堀りして、歩行における「股関節と骨盤」の角度と動きについてご紹介させて頂きます。

関節の角度と動きを理解する上で、下肢の関節についての基礎は固めておきましょう。

また、歩行の各相における関節と筋肉の動きを一読後、この記事を読み進めて頂くことを推奨します。

歩行における「股関節と骨盤」の働き

歩行における股関節と骨盤の働きをまとめると、以下のことが言えます。

立脚期で脚が支持足の直上を離れて動く間、股関節の動きは骨盤と体幹の直立位保持を可能にします。

股関節伸展筋群は、2つの重大な要素があります。

・遊脚終期において遊脚肢にブレーキをかけ、立脚の準備をすること
・遊脚期で発生する体幹と骨盤の前方への加速を抑制すること

身体重心が中心に位置することによる骨盤の反対側への傾斜を防ぐために、外転筋群が活動します。

遊脚期で脚が前に動く際、股関節屈筋群はほんのわずかしか活動しません。

各歩行周期における「股関節と骨盤」

歩行周期の各相において、「股関節と骨盤」にどのような角度と動きが生じているのか、その詳細を1つずつご説明していきます。

以下に記載する股関節の運動の範囲は、鉛直線に対する大腿骨のポジションです。

骨盤は独自の運動パターンがあり、骨盤に対する大腿骨のポジションは用いません。

鉛直線を基準にすると、観察と判断が行いやすくなります。

矢状面における骨盤のニュートラル・ゼロ・ポジションは10°前傾位とします。

初期接地(歩行周期の0%)

【運動の範囲】
遊脚終期で到達した20°屈曲位が保持されます。
骨盤は観察肢側が前方へ動くように水平面で5°前方回旋します。

【発生するモーメント】
すばやく強力な屈曲方向のモーメントが発生し始めます。

【筋の活動】
・すべての股関節伸筋が活動し、衝撃吸収相で安定させる機能を発揮する準備をします。
・大殿筋と股関節伸展としての大内転筋が一時的に遠心性収縮します。
・半腱様筋や半膜様筋、大腿二頭筋の長頭といった股関節伸筋群も遠心性収縮をします。

【機能的意義】
この股関節と骨盤の動きのポジションが、動的な安定性と前方への動きを可能にします。

荷重応答期(歩行周期の0~12%)

【運動の範囲】
・20°屈曲位が保持されます。
・骨盤は5°前方回旋のままです。

【発生するモーメント】
・矢状面
すばやく強力な屈曲方向へのモーメントが発生します。
歩行中に発生する2番目に大きなモーメントです。

・前額面
股関節周りで内転方向のモーメントが発生し始めます。

・水平面
内旋方向のモーメントが発生します。

【筋の活動】
・矢状面
5つのすべての股関節伸筋が屈曲方向のモーメントに拮抗して働きます。

・大殿筋の下部線維と大内転筋の活動が単関節筋として最大収縮します。
ハムストリングスが股関節伸筋として屈曲方向のモーメントに拮抗して働きますが、ニ関節筋のため、膝関節屈曲とともに活動は減少します。

・前額面
骨盤と体幹を安定させるために、股関節周りで内転方向に発生するモーメントに拮抗して、大腿筋膜張筋後部線維と中殿筋、小殿筋と大殿筋上部線維の筋活動がピークに達します。

【機能的意義】
・衝撃吸収相において股関節と大腿を安定させます。
・体幹の前方動揺の抑制をします。
・前額面で骨盤を安定させます。

立脚中期(歩行周期の12~31%)

【運動の範囲】
・股関節は20°屈曲位からニュートラル・ゼロ・ポジションまで伸展します。
・骨盤は5°前方回旋位からニュートラル・ゼロ・ポジションへ戻ります。

【発生するモーメント】
・反対側の遊脚肢は、観察肢の横を横切って前に出ます。
それに伴い観察肢の立脚終期の終わりに、股関節周りのモーメントは屈曲方向から伸展方向へ変化します。

・前額面で内転方向へのモーメントは引き続き発生します。

【筋の活動】
・矢状面において股関節周りで筋の活動は必要とされません。
床反力ベクトルが股関節の後方を通過することにより発生する伸展モーメントと、反対側の遊脚肢の勢いが受動的な伸展を生じさせます。

・前額面において骨盤の側方傾斜(4°)は、大腿筋膜張筋と中殿筋、そして小殿筋といった外転筋群の遠心性収縮によって制御されます。
傾斜した後に骨盤が再び安定位になると、筋の収縮形態は遠心性から等尺性に変わります。

【機能的意義】
・矢状面で安定した関節ポジションが、筋の活動なしに得られます。
・前額面で股関節外転筋群が骨盤を安定させ、側方傾斜を防ぎます。

立脚終期(歩行周期の31%~50%)

【運動の範囲】
・股関節はニュートラル・ゼロ・ポジションから20°伸展位まで伸展します。
・骨盤の前傾と観察肢の股関節が後方へ動く水平面での5°後方回旋は、股関節の伸展を助けます。

【発生するモーメント】
・身体重心は前足部の直上から大きく前方へ移動します。体幹は直立し、床反力ベクトルは股関節の後方を通過します。それによって発生する伸展方向のモーメントは、股関節を安定させます。
・内転方向のモーメントは急速に減少します。

【筋の活動】
・大腿筋膜張筋の後部線維の活動は終わり、前部線維が遠心性に収縮します。
・大腿筋膜張筋の動作性筋電図は個人によって異なります。

【機能的意義】
・体幹が足の支持面の直上から外れて前方に動き、最大の歩幅を得ることが可能となり、脚が安定します。
・観測肢の股関節が骨盤の後方回旋によって歩容が滑らかになります。

前遊脚期(歩行周期の50%~62%)

【運動の範囲】
・大腿が前方へ移動します。
大腿はニュートラル・ゼロ・ポジションに見えますが、実際は10°の軽度伸展位です。
・骨盤は5°後方回旋です。

【発生するモーメント】
脚への荷重は減少し、それに応じて股関節周りの伸展方向のモーメントは減少します。

【筋の活動】
・屈筋としての長内転筋の僅かな活動が、勢いと相まって大腿を前方へ運びます。
また、身体重心が反対側へシフトすることにより発生する股関節周りの外転方向のモーメントにブレーキをかけることにも作用します。

・大腿直筋は前方への勢いが強すぎる場合に膝関節屈曲を制御し、股関節屈曲を助けます。

【機能的意義】
・下肢に勢いがつき、脚の前方への動きが始まるので、この相は加速期とも呼ばれます。
・股関節屈曲は他の動きとともに膝関節屈曲に寄与しています。

遊脚初期(歩行周期の62%~75%)

【運動の範囲】
・股関節は10°伸展位から15°屈曲位まで動きます。
・骨盤は5°後方回旋のままです。

【発生するモーメント】
・下腿の慣性力により股関節周りで伸展方向のモーメントが維持されます。
・遊脚初期の終わりに股関節周りの伸展方向のモーメントはゼロに近づきます。

【筋の活動】
・腸骨筋、薄筋、縫工筋の活動がこの相でピークに達します。
・腸骨筋は歩行速度に応じて活動します。
・薄筋は股関節の屈曲と内転、内旋ならびに膝関節屈曲に関与します。
・縫工筋が股関節の屈曲と外転、外旋ならびに膝関節屈曲に関与します。それゆえ縫工筋は、膝関節の屈曲を除き薄筋の拮抗筋となります。
・3次元空間における脚の動きは、薄筋と縫工筋のバランスがとれた働きといえます。
・長内転筋の活動は継続します。

【機能的意義】
・遊脚肢の前方への動きが継続します。
・前遊脚期で得られた勢いがこの相で保持されます。

遊脚中期(歩行周期の75%~87%)

【運動の範囲】
股関節は15°屈曲位から最大25°まで屈曲します。
骨盤はニュートラル・ゼロ・ポジションへ前方回旋します。

【発生するモーメント】
下腿のすばやい前方への動きに基づく下肢の慣性力が、股関節周りで徐々に増加する屈曲方向のモーメントを生じさせます。

【筋の活動】
・股関節の受動的屈曲が起こる時期です。
・薄筋だけが活動しています。
・ハムストリングスが、遊脚中期の後期で活動し始めます。

【機能的意義】
・大腿の前方への動きが徐々に減速します。
・観測肢の勢いによって生じる力が、体幹が反対側の脚(立脚肢)を超えて前に運ばれることを助けます。

遊脚終期(歩行周期の87%~100%)

【運動の範囲】
・股関節は25°屈曲位から20°屈曲位までわずかに戻ります。
・骨盤は水平面で5°前方回旋します。

【発生するモーメント】
股関節周りの屈曲方向のモーメントは、遊脚終期の終わりに減少します。

【筋の活動】
・ハムストリングスの活動がここでピークに達します。
筋の遠心性収縮が大腿の動きにブレーキをかけ制御します。

・矢状面
大内転筋および大殿筋下部線維が、この相で活動し始めます。
それらは次に控える荷重の受け継ぎに備え、股関節を安定させる働きの準備をします。

・前額面
それと同時に大腿筋膜張筋、中殿筋、大殿筋上部線維が活動します。
それらは次に控える荷重の受け継ぎに備え、骨盤を安定させる働きの準備をします。

【機能的意義】
・脚は踵の初期踵接地のために正しく位置決めされ、筋は荷重の受け継ぎに備えた準備体制に入ります。
・骨盤の前方回旋は歩幅に寄与します。
・遊脚終期は遊脚期と立脚期の移行期です。

〈参考文献〉

1)Kirsten Gotz-Neumann (2014) 観察による歩行分析 原著 第1版第14刷 医学書院

まとめ

歩行中の「股関節と骨盤」の角度と動きについてご紹介させて頂きました。

歩行中の関節の角度と動きの理解は、歩行分析において大切です。

今回は「股関節と骨盤」について取り上げましたが、他にも歩行において着目すべき関節「足関節と中足指節間関節」「距骨下関節」「膝関節」「体幹」「腕」があります。

是非、参考にしてみてください。

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