高齢者の歩行の特徴6つと歩行障害について紹介します

理学療法を実施する際に、移動能力はほぼ必須で評価が必要な項目です。その中でもいかに歩行能力を自立に持っていくか、より良い歩容にしていくかが理学療法士の腕の見せ所となります。

その際に適切なアプローチを行うためには、歩行分析を行い問題点を探していく事が必須となります。そのため今回は、問題点となりやすい高齢者の歩行の特徴や歩行障害について解説していきます。 

高齢者の歩行の特徴6つを紹介 

高齢者の歩行と聞くとどんな歩き方を想像するでしょうか。なんとなく不安定な歩きが思い浮かんだかと思います。

人によって思い浮かんだ歩き方はそれぞれあるかと思いますが、今回は具体的によく見かける歩き方6つをあげさせていただき、それぞれ解説していきたいと思います。

1.歩くスピードが遅くなる 

歩行スピードを構成する要素は歩幅×歩行率となります。その中で歩幅の減少は加齢などによる筋力の低下、歩行率の低下はバランス機能の低下が原因となることが多いです。

歩幅に関しては大腿四頭筋のみではなく、股関節伸展筋(大殿筋)の筋力など下肢全体の伸展筋が重要となってきます。また、転倒や骨折の経験のある方は転倒恐怖感から歩行速度を上げることができないといったメンタル面が問題となる方もいらっしゃいます。

正常歩行速度は1.37m/秒と言われていますが、年齢や身長などの身体的特性によって個人差があります。近年注目されているフレイル基準(J-CHS基準)のカットオフ値である1.0m/秒を一つの目安とすると良いかもしれません。

そのため歩行分析を行う際には筋力などの問題で歩幅が小さいのか、バランスなどの問題で歩行率が少ないのかに着目して評価を行う必要があるかと思います。

2.前かがみになってしまう 

前かがみな姿勢での歩行で浮かんでくるのは円背姿勢での歩行が浮かんでくるかと思います。

原因としては加齢や骨粗鬆症による脊柱の後湾変形が原因となってきます。このような後湾変形を呈する高齢者は腰痛や膝関節痛などの関節痛を生じることが多く、かつ転倒に対する恐怖感を抱いていることが多いと言われています。

その他に前かがみになってしまう原因として股関節屈曲筋である腸腰筋の遠心性の働きが弱く、歩行周期の中の立脚後期で股関節を伸展位にすることができないといったことも挙げられます。

前かがみ姿勢での歩行を行っている方がいた場合には、歩行分析と併せてアライメント評価と腸腰筋の筋力を測定するとよいでしょう。

3.足が上がりにくくなる 

足を重たそうに持ち上げていたり、地面を擦るように歩くような歩き方です。加齢などによる筋力低下だけでなく姿勢の変化が大きく影響しています。また当然ですがつまずきの原因にもなりますし、長距離を歩く事が難しくなる場合が多いです。

足があがりにくい歩行の原因としては股関節の動きが大きく関係してきます。歩行周期の中で股関節は踵接地時に約30°の屈曲、足趾離地の際に約10°の伸展をします。

そのため歩行を行うためには最低でも屈曲30°以上の可動域が必要となります。ただし前述の円背(脊柱の後湾変形)がある場合は必要となる股関節の屈曲可動域はより多くなります。

また正常なアライメントでは股関節の屈曲筋である腸腰筋は足を振り出す際には振り子運動の力を使うためあまり大きな力は必要としません。

しかし円背や股関節の伸展可動域の制限があり立脚後期で股関節を0°以上の伸展位にする事が出来ない場合は、本来使う必要のない腸腰筋を努力的に使用する必要が出てくるため、足を持ち上げるための腸腰筋の筋力も必要となってきます。 

歩行分析を行い足の上りが悪いなと思ったら、股関節の可動域と脊柱のアライメント評価、腸腰筋の筋力の評価を行ってみると原因が見つけられるかもしれません。 

4.つまずきやすくなる 

つまずくということは地面や段差、障害物に対して遊脚側のつま先がぶつかってしまう状態です。

つまずいてそのまま転倒してしまうことで骨折などのリスクがあります。

大きな障害物に関しては意識的に足を持ち上げるためつまずく事は少ないですが、無意識に歩けてしまう程度の段差(敷居など)では思ったよりも足が持ち上がっておらずつまずいてしまうという場面をよく見かけます。

こういった場合は筋力等だけでなく、ボディイメージや認知機能も影響していることがあります。

正常な歩行では遊脚側の股関節、膝関節の屈曲、足関節の背屈により、足趾のクリアランスを確保します。

まず足関節に注目した際、歩行中必要となる足関節背屈の可動域は通常10°といわれています。

膝関節に関しては遊脚中期に適切なタイミングで屈曲しているかが重要となってきます。

股関節は遊脚側の屈曲運動に注目したくなりますが、それ以外にも前額面上での立脚側の股関節運動も確認が必要です。

立脚側の中殿筋の筋力低下などによって骨盤が遊脚側に傾斜してしまうとクリアランスの確保が行えなくなりつまずきに繋がります。

そのため歩行分析によりつまずきがみられる場合には足関節の可動域だけでなく、膝関節、股関節の動きに関してもしっかり確認し、可動域、筋力を評価する必要が出てきます。

5.バランスが悪くなり転倒 

バランスの悪さは急な方向転換や薄暗く視界が悪い状態になった際に顕著に見られます。また普段はスタスタ素早く歩けている様に見える方でも推進力を利用しているだけで、実はバランス機能が低下しておりゆっくり歩くとフラフラしてしまう方もいらっしゃいます。

バランスというものは様々な要素が絡まりあって成り立っています。まず立脚側の下肢筋力が最低でも徒手筋力テスト(MMT)で抵抗に抗することができる段階4以上ある必要があります。その上で問題がある場合に平衡機能などの評価が必要となってきます。

バランスに関しては奥が深く、深部感覚や前庭機能、協調性などを複合的に評価していく必要があります。

また視覚を含めた環境などにも左右されることも頭に入れておく必要があります。なおバランス機能の評価を厳密に定量化するためには重心動揺計などの機械が必要となってきます。 

6.長い時間歩けなくなる 

「最近体力が落ちて長く歩けなくなった」とよくある言葉です。これは長距離を歩く事が出来ないと外出頻度が下がってしまい、そのため活動量が低下に伴い筋力・体力が低下し、さらに外出頻度が減り…と不のループに入ってしまうため注意が必要です。

長時間の歩行に関しては肺機能や心機能などに問題がないか確認する必要があります。また長い歩行が行えなくなる疾患として脊柱管狭窄症が挙げられます。

これらの循環器や脊柱に問題がない場合に考えなければならない要素として効率の悪い歩行を行っていないかを見ていく必要があります。

ここまでに挙げてきた様な歩行に何か問題がある場合、他の機能で代償しようと本来使わないはずの部位等が過剰に働いてしまいます。

そうすることによって筋疲労を起こしてしまい、長距離の歩行を困難にしてしまいます。そのためただどの程度歩けるのかを評価するだけでなく、歩行分析を行い、異常歩行を引き起こしていないかを確認していきましょう。

また歩行分析を行う際に見た目だけのきれいな歩容かを見るだけでなく、効率良く体を動かせているかという点も頭にいれて評価する事していく必要があります。 

高齢者に多い歩行障害について 

歩行を行うためには脳から命令を出し、脊髄を通り末梢神経介し、各筋肉に指示を伝え、関節運動を起こす事によって成り立っています。この中の何か一つに異常があるだけで正常歩行を行えなくなってしまうのです。

逆に言えば完璧ではありませんが特徴的な歩行障害は疾患や障害部位を推測することに役立ちます。ここからは代表的な歩行障害について紹介していきたいと思います。 

1.痙性歩行 

痙性歩行とは上位運動ニューロンの障害によっておこる痙性麻痺により膝関節が伸展してしまい、足関節は内反尖足となってしまった状態での歩行です。

尖足によってつま先立位となるため足底接地が行えずバランスが取りにくかったり、つまずきに繋がったりといった問題があります。症状として片側性の場合は脳卒中などが原因、両側性の場合は脊髄損傷などが疑われます。

2.失調性歩行 

失調性歩行とは運動の協調性が障害され、歩行時に接地位置がバラバラになってしまう歩行です。

症状が重たい場合、自分自身の足につまずいてしまったり、意図しない場所に接地してしまうためバランスを崩したりしてしまうため、歩行自体が困難となってきてしまうことが多々あります。

多くは小脳の脳血管障害や脊髄小脳変性症といった小脳疾患によって引き起こされることが多いです。特徴として閉眼しての歩行になるとより症状が強くなるといった特徴があります。 

3.パーキンソン病歩行 

パーキンソン病歩行の特徴としては歩幅が狭くなってしまう小刻み歩行、足を床にすって歩くすり足歩行、段々と前のめりになってしまい意図せず歩行速度が上がっていってしまう突進歩行が挙げられます。

その他に歩き始めの第1歩が出ないすくみ足、バランス機能の低下によって方向転換時の転倒リスクといったものもあります。

これらは名前の通り、中脳黒質の障害によるパーキンソン病、または薬剤の副作用などによって引き起こされるパーキンソン症候群が原因となります。 

まとめ 

歩行の特徴などをまとめさせていただきました。

歩行分析を行う際には現在どのような歩行をしているかを見るだけでなく、その原因を探していく必要があります。

逆に言えば歩行分析をしっかりと行うことができれば診断の一助となるだけでなく、リハビリテーションの方向性を決めていく力強い武器となります。そのためにも是非改めて歩行分析について考えてみていただけたらと思います。 

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歩行時のバランスの重要性と改善方法 著者:佐藤洋平(EHA監修)
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