変形性股関節症の歩行症状を分析したことのある理学療法士さんは多いと思います。
股関節の痛みの原因として最も多いのが、変形性股関節症です。変形性股関節症の歩行症状は、病状によってさまざまです。歩行分析をする際に、病態生理がとても重要になります。
変形性股関節症に悩む患者さんの歩行症状を理解し、適切な治療を早期から行うことで、予後が良好になります。
この記事では、変形性股関節症の病態、歩行症状、治療法について解説しますので、一緒に勉強していきましょう。
変形性股関節症とは?
変形性股関節症とは、股関節の関節軟骨がすり減り、炎症を引き起こし、痛みなどの症状が出る疾患をいいます。
症状が悪化すると、炎症が関節軟骨の破壊をさらに促し、その下の骨にも破壊や変形などが生じます。
股関節と臼蓋形成不全
正常な股関節
臼蓋形成不全
正常な股関節では、広い面で荷重が分散されます。
臼蓋形成不全では、臼蓋と大腿骨頭の適合性が悪く、荷重が分散されないため、軟骨の摩耗・変性が生じます。
病期分類
変形性股関節症は、おもに関節裂隙の狭小化の程度により、4段階に分類されます。
■前股関節症
軟骨に軽度の摩耗はあるが、自覚症状はほとんどない状態です。
■初期股関節症
軟骨が摩耗し、関節裂隙が狭くなります。股関節の痛み、可動域制限がみられます。
■進行性股関節症
一部の関節裂隙が消失、骨同士がぶつかり合い、骨が硬化・変形し、症状も強くなります。
■末期股関節症
関節裂隙が広範囲に消失。骨棘が生じ、関節が変形します。
変形性股関節症の歩行症状
痛みの特徴と症状
自覚症状で一番多いのは、股関節付近の鼠蹊部の痛みや違和感です。
■初期
立ち上がる時、歩き始め、長時間歩く時、階段の昇降時に痛みます。
また、股関節を大きく曲げた時に痛みますが、それ以外の時はあまり症状が出ません。
■進行期・末期
歩いている時に常に痛みを感じます。座位や就寝時など安静時も痛みが起こります。
さらに進むと、骨棘の増加などで逆に痛みを感じにくくなることもあります。
歩行症状
■脚を引きずって歩く
悪い方の脚を踏み出すと痛むため、反対の脚を軸にして、脚を引きずるように歩きます。
■上体が傾いている
股関節が悪いと骨盤のバランスにも影響が及び、上半身が傾いてしまいます。
悪い方の骨盤が下がるのが特徴です。
■体を揺らしながら歩く
悪い方の脚をかばうため、カクッカクッと方が左右に揺れるように動きます。
■小股になる
股関節の可動域が狭くなり、脚を大きく動かせず歩幅が小さくなり、小股になります。
変形性股関節症の原因
変形性股関節症の原因は、一次性と二次性に分けられます。
一次性
股関節の形状に異常はなく、加齢や体重の過剰な負荷により起こるタイプです。
欧米の男性に多いのが特徴です。
・加齢
・激しいスポーツ
・重量物を持ち上げる負担の大きな職業
・過度の肥満
・遺伝
二次性
もともと変形性股関節症を起こしやすい原因があるタイプです。
日本人の女性に多いのが特徴です。
亜脱臼性の股関節疾患
・臼蓋形成不全
・発育性股関節形成不全
その他の股関節疾患
・関節唇損傷
・FAI
変形性股関節症の治療について
変形性股関節症の治療は、保存的治療と外科的治療の2つがあります。
診断されたら最初に、進行を抑えるための保存的治療を行います。
保存的治療の効果がみられない場合には、外科的治療が検討されます。
保存的治療
①日常生活への工夫
しゃがみ込みや立ち上がりをなるべく避けましょう。
股関節に大きな可動域を要するなど負荷の高い日常生活動作にかかる負担を、動作方法の工夫やグッズの活用によって軽減しましょう。
例えば,脚を深く曲げてしゃがむほど、股関節の負担も大きくなります。
椅子からの立ち上がりは、浅く腰掛けた姿勢から立ち上がるように工夫しましょう。
股関節に痛みがある場合は便利グッズを利用しましょう
ソックスエイド、マジックハンド、回転式爪切りなどを利用しましょう。
靴下を脱ぐ時は、このように脚を後ろに曲げると楽です。
生活環境を見直して、負担を減らしましょう
よく使う調理器具や衣類は立ったまま取れる高さに置いておきましょう。
食卓はダイニングテーブルにしましょう。
ソファーは低すぎず柔らかすぎず、適度な物にしましょう。
寝るときはベッドにして、床からの立ち上がりは避けましょう。
トイレは洋式にして、浴室には手すりを設置しましょう。
靴選びも大切です
衝撃を吸収するクッション性のある靴にしましょう。硬すぎても柔らかすぎてもダメです。
ヒールの高い靴、先の細い靴は足の変形に繋がり安いので避けましょう。
脚長差が大きい場合は中敷きを使うと良いでしょう。短い脚の方の靴に入れて調節します。
長時間の歩行は避け、休憩を取りましょう
ゆっくり10〜15分歩いたら、座って休憩をとりましょう。
荷物はなるべく軽くして、両手に分けて持つと良いでしょう。
急な坂道や階段はできるだけ避けましょう。
痛みが強い場合は、杖の使用がお勧めです。
T字杖を使用しましょう。歩き方が不安定な場合はロフストランド杖を使用しましょう。
適切な長さで使用することが大切なので、きちんと調節しましょう。
道具や移動の工夫をしましょう
荷物は10kg以内にし、なるべくカートを使いましょう。
満員電車は避け、なるべく座って移動しましょう。
長時間運転する時は、こまめに休憩をとりましょう。
体重コントロールをしましょう
股関節への負担を減らすため、肥満がある人は適正体重を目指して減量しましょう。
ウォーキングは避け、室内でこまめに体を動かし、栄養バランスに気をつけましょう。
②運動療法
リラクセーション(20秒間×2セット)
貧乏揺すり運動がお勧めです。
椅子に座り、つま先は床に着けたまま、踵だけを上下に動かします。
脚の付け根や太ももには力を入れず、小刻みに動かすことがポイントです。
関節可動域運動とストレッチ(10回×2セットずつ)
仰向けになり、膝を立てます。
肩が浮かない程度に骨盤をねじり、両膝をくっつけたまま左右に動かしましょう。内外旋の可動域改善に有効です。
次に、脚の開閉を行いましょう。ゆっくりと膝を開き、元に戻す動きを繰り返すことで、外転・外旋の可動域改善に繋がります。
筋力強化(10回×2セットずつ)
仰向けになり、膝を立て、脚を肩幅に開きます。寝たまま行うことで、股関節に荷重をかけずに運動することができます。
骨盤がぐらつかないようにお尻に力を入れたまま、お尻→骨盤の順に持ち上げます。
5秒間静止してからゆっくりと元の姿勢に戻ります。
股関節伸展筋・外転筋を鍛える運動です。
余裕がある場合は、お尻をあげた状態で足踏みをしてみましょう。
次に、股関節周囲筋と大腿四頭筋を鍛える運動です。
仰向けで膝を立てた状態から、片方の脚をゆっくり引き上げて真っ直ぐ伸ばし、そのまま3秒間保ちます。これを左右交互に行います。
姿勢の改善(1分間×1セット)
椅子に座り、骨盤を前後に傾けて、股関節と脊椎を屈伸させましょう。
姿勢を改善し正しい姿勢がとれると、股関節に余計な負荷がかからなくなります。
外科的治療
①関節鏡視下手術
股関節周辺に小さな穴をあけ、関節鏡という器具を入れて行う方法です。
体に大きな負担をかけずに痛みを軽減できます。効果を長持ちさせるには、術後リハが重要です。
・対象:どの病期でも受けられます。
前、初期股関節症で関節唇損傷がある方
進行期以降で特に片側のみの方
・入院期間:前、初期股関節症の場合は2〜3週間程度
進行期以降では1ヶ月以上の場合もある
②骨切り術
股関節を負担の少ない形に変える手術です。
人工関節を用いずに、骨の形を正常な状態に近づけることができます。
・対象:50歳までの方
・入院期間:1〜2ヶ月程度の入院が必要
術後早期は免荷のためリハビリ期間が長くかかる
③人工関節置換術
変形した骨を取り除き、人工関節に替える手術です。
人工関節に替えることで、痛みなどの症状がほぼ消失します。
・対象:進行期、末期の方
主に50歳以上の方(40歳代以下でも他の手術が適さない場合は行う)
・入院期間:2〜3週間程度
術後早期に荷重可能なので、リハビリ期間が短くて済む
<参考文献>
(1)高井信朗(2014)全部見える 整形外科疾患 成美堂出版 2014年12月10日発行
(2)池上晴之(2012)股関節の痛み 変形性股関節症の治療がよくわかる NHK出版 2012年3月25日第1刷発行
まとめ
変形性股関節症の病態、歩行症状、治療法について解説してきました。
お伝えしきれませんでしたが、物理療法も適応です。主治医と相談して治療を進めていくことが大切です。
また、股関節の障害は腰や膝との関わりが深く、変形に繋がりやすい特徴があります。
変形性股関節症の歩行症状、適切な治療法を理解し、明日からの臨床に生かしましょう。