「歩行分析が難しくて、何をどう見ればよいかわからない」
「歩行分析のポイントを知りたい」
「患者さんの異常歩行の原因を明らかにして、効果的な治療をしたい」
臨床でこのような悩みを抱える理学療法士さんは多いと思います。
漠然と患者さんの歩行を眺めているだけでは何も分析できず、なんとなくの治療になってしまいます。
歩行分析には、システム化された手順やポイントがあり、それを正しく把握しておくと、的はずれな歩行分析にはなりません。
この記事では、歩行分析の目的と評価ポイントについて、測定方法や異常歩行をご紹介致します。
歩行分析につまづいている理学療法士の方にとって大変有用な内容です。
一緒に勉強していきましょう。
歩行分析を実施する目的
歩行分析を実施するそもそもの目的は、理学療法士が患者さんのために個々に適した治療方法を考え出し、目的に即して活用できるようにすることです。
個々の治療は、選択した理学療法士が主たる機能的な問題の解剖学的・身体構造的原因に合致した時に効果を発揮します。
歩行分析における歩行周期について
歩行は、左右の下肢が対照的な交互運動を周期的に繰り返すのが特徴です。
歩行分析において、「歩行周期」を理解しておくことは大前提です。
歩行における1側の下肢の運動周期は、大きく分けて2つの相から成り立っています。
すなわち、足部が床に接地している立脚相と、足部が床から離れている遊脚相です。
歩行分析で着目するポイント
歩行分析では、まず全体的に歩行動作を把握する必要があります。
その際、着目すべきポイントを知っておくことは重要です。
以下に、歩行分析で着目するポイントを挙げます。
・患者は、歩行中に頭部や目線を自由に動かせるか?足元を見ながら歩いていないか?
・歩行は安定しているか?ふらつきはないか?
(介助や監視がなく40〜50m程度独歩できれば安定していると言えます)
・速度は実用的か?
(健常成人の歩行速度は男性では80m/min、女性では75m/minです)
・左右の上肢・下肢が対照的に相対する動きになっているか?
・歩幅は適切か?左右で違いはないか?
・歩行のリズムは一定か?
・下肢を振り出すタイミングは適切か?
・重心の左右、上下動は滑らかか?その振幅は適切か?
・カーブを曲がったり方向転換はできるか?
・体幹は垂直に保たれているか?
・会話をしながら歩行することができるか?
・屋外の不整な場所を自由に歩けるか?
・人の往来の激しい場所を歩くことができるか?信号の間隔に合わせて横断歩道を渡ったり、歩道の段差を乗り越えられるか?
・どのくらいの距離を休まずに歩けるか?
・人の介助・杖・その他の装具を必要とするか?
健常者の場合でも、歩容は年齢、性差、身長、体重や生活習慣の影響を受け、また、心理状態によっても変化します。
これらのポイントに着目し、歩行分析を行っていきましょう。
歩行分析の評価ポイント
ここでは、歩行分析における観察評価のポイントについて説明します。
歩行の観察は、矢状面と前額面から行います。
矢状面から観察する
患者さんの歩行をまず矢状面から観察します。
矢状面からの観察では、歩行時の前後動揺、バランスを評価することができます。
前額面から観察する
すべての異常を正確に把握するために、矢状面だけでなく前額面からも観察します。
前額面からの観察では、歩行時の左右動揺、バランスを評価することができます。
歩行観察の手順
歩行観察の手順としては、以下のように行います。
まず、頭部・体幹・骨盤を観察し、次に左右の足を片側ずつ、足・膝・股関節の順に観察します。また、上肢の動きも重要ですので、見落とさないようにしましょう。
そして、正常な歩行周期における関節の角度と比較します。
また、各歩行周期の時間も観察していきます。
注意点として、患者さんの全ての運動を同時に把握しようとしてはダメです。
矢状面、前額面からそれぞれ細分化して観察していくことが大切です。
その他の観察・確認事項
・立ち上がり動作と座り動作
歩行は立ち上がることから始まって、最後は座ることで終了します。
体のどこから動作を開始するか?どちらの足により多く荷重するか?上肢をどのくらいサポートとして使用するか?などもポイントです。
・関節のマーキング
観察の精度を高めるために、粘着テープ付きのマーカーで関節をマーキングします。
これは、個々の関節に着目することへの集中を高めることができます
実際に歩行分析を行う
これまでご紹介してきたポイントを押さえ、実際に歩行分析を行っていきましょう。
測定距離について
測定距離について、理学療法士が歩行分析をする際は10m歩行テストがよく用いられます。
・10m歩行テスト
10mの距離を測り、その前後3mを確保します。
すなわち、患者さんには計16mを歩いてもらいます。
普通のペースで歩いてもらい、10m部分の時間を計測します。
地域在住の高齢者の平均は、 屋内歩行自立の場合10m を 20 秒(0.5m/s)、 屋外歩行自立の場合10m を 10 秒(1m/s)です。
このような標準化されたテストを用いることで、平均との比較が行いやすいです。
しかし、環境的に16mを確保できなかったり、そんなに歩けない場合もあると思います。
あくまでも、歩行分析における測定距離の目安として参考にしてください。
測定場所について
標準化された歩行評価(10m歩行テストやTUGなど)を行う場合、基本的には整地された床面で行うのが一般的です。
まずは、整地された場所にて、標準化されたテストを行うことが必要です。
しかし、日常生活における歩行場面は整地された場所だけではありません。
砂利道や坂道、細い道や人通りの多い道などさまざまです。
さまざまな環境で歩行分析を行い、整地された場所での歩行との違いを分析することも大切と言えます。
どのような歩容で歩いてもらうか指示
最初は、普段通りの歩容で歩いてもらいます。
普段通りの歩容を分析した後に、個々に応じた歩容を求めることが必要です。
例えば、パーキンソニズムが疑われる場合には歩行速度を変えてみる(早歩き)とか、運動失調が疑われう場合にはタンデム歩行やワイドベース歩行をしてもらって安定性の違いを診るなど、応用的に評価していくことが必要となります。
そのためには、異常歩行のパターンを理解しておくことが必要です。
異常歩行については後に説明致します。
また、必ず、フリーハンド歩行での歩行分析を行いましょう。
杖や歩行器などの歩行補助具を代償として使用していると、本来の問題が見えません。
まずはフリーハンド歩行を観察して、本来の主要問題点を特定し、それに応じた歩行補助具を導入することが正しい順序です。
場合によって他のスタッフに介助してもらう
先程、フリーハンド歩行での歩行分析を行うことの必要性を説明しました。
「普段から歩行補助具を用いている場合はどうなるの?」「リスク管理は?」
という不安が生じることと思います。
そんな時は、他のスタッフに手伝ってもらいましょう。転倒等には十分配慮してください。
患者さんの体格や、障害の度合いによっては独歩での評価にリスクが伴います。
リスク管理を大前提に、代償を極力なくした本来の歩行分析を行いましょう。
疾患のある患者さんへの注意
患者さんの体格や、障害の度合いによってはリスクが伴うことをお伝えしました。
臨床を行う上で当たり前のことではありますが、現病歴、既往歴を把握し、禁忌事項を守り、バイタルチェックを行いながら、予測されるリスクを念頭に置いて、歩行評価を行いましょう。
異常歩行について
最後に、異常歩行についてご紹介します。
代表的な異常歩行のパターンを頭に入れておくことで歩行分析がスムーズになります。
先入観にとらわれず、まず純粋に観察を行った上で症状について熟考することが大切です。
はじめから症状に着目すると、先入観にとらわれた観察になってしまうからです。
代表的な異常歩行に関しては、こちらの記事をご参照下さい。
〈参考文献〉
(1) Kirsten Gotz-Neumann (2014) 観察による歩行分析 原著 第1版第14刷 医学書院
(2)石井慎一郎(2015)動作分析 臨床活用講座 バイオメカニクスに基づく臨床推論の実践 第7版 株式会社メジカルビュー社
まとめ
歩行分析の目的と評価ポイントについて、測定方法や異常歩行をご紹介致しました。
歩行分析につまづいている理学療法士さんの問題解決に繋がれば幸いです。
明日からの臨床に活かしていきましょう。