歩行分析において、各パーツごとの分析を、観察だけで把握することは困難です。
しかし、正常歩行における各関節角度や動きがどのような仕組みなのかを理解しておくことで、観察がしやすくなり、歩行分析力を高めることができます。
歩行分析における関節の角度と動きについて、「運動の範囲」「発生するモーメント」「筋の活動」「機能的意義」という観察すべき4項目の重要性を説明させて頂きました。
この記事では、さらに深堀りして、歩行における「体幹」の役割(主に関節の動きと筋活動)と分析ポイント、高齢者の歩行と体幹についてご紹介させて頂きます。
また、歩行の各相における関節と筋肉の動きを一読後、この記事を読み進めて頂くことを推奨します。
歩行における「体幹」の働き
体幹は身体における中心部であり、上肢や下肢と連結しています。
そのため、歩行中の体幹は骨盤との協調性や肩・腕の動きと関連が大きいと言えます。
全身体重量の約2/3が臍から上にあるため、直立姿勢とバランス保持のための制御が特に必要となります。
歩行中の「体幹」における運動の範囲
歩行中の体幹における運動の範囲の特徴は以下のようになります。
・水平面で体幹は約5°回旋します。
・体幹の回旋は肩の回転を生じさせ、肩の回旋方向は骨盤の回旋と反対向きに起こります。
・腕の振りは、しばしば肩関節と上半身の制御された活動性においてよい指標となります。
・簡単に確認できる腕の振りとは異なり、体幹の構成要素の回旋を確認することは難しいと言えます。
・体幹は前額面と矢状面において直立しています。
歩行中における「体幹」の筋活動
歩行周期全般において、外腹斜筋と内腹斜筋がわずかに活動します。
腹直筋は通常、同側と反対側の立脚中期と遊脚終期の時に活動します。
両側の深層の体幹伸筋群と回旋筋群(インナーマッスル)が、荷重応答期で体幹を安定させるために活動します。
この時、屈曲方向のモーメントは最大になります。
前遊脚期で同側の脊柱起立筋が活動し、その時、反対側の脚は荷重されます。
歩行中の「体幹」を分析するポイント
体幹は観察により動きがはっきりとわかるものでは無いため、分析が難しいです。
そんな時、以下のような評価・分析をしてみると良いでしょう。
・階段を上がったり降りたりする時、立ち上がったり座ったりする時など、歩行だけでなく全身動作も兼ねて観察する。
・支持面や脚の関節と身体重心の位置関係に注意する。
・体幹を4つの四辺形に区分けし、それぞれの運動制御、すなわち活動性、安全性、制御された動きと巧緻性を段階ごとに評価する。
高齢者の歩行と体幹
高齢者は、加齢や骨折などによって脊柱が変形するため、体幹をやや前傾位や後傾位に倒した状態で歩行している場面が多々あります。
高齢者では、円背や凹円背の頻度が高く、円背では体幹が前傾となり、凹円背では腰椎前弯が強くなるため腹部を前方へ突き出した体幹後傾となります。
歩行分析において、このような体幹の前後傾が歩行にどのような影響を及ぼすのかを理解しておくことが必要です。
体幹前後傾が歩行動作に及ぼす影響を調査した研究で、以下のことが示されています。
体幹前傾歩行
立脚期のバランスを安定させるため、股関節屈曲と膝関節屈曲を大きくし、骨盤を後方へ引くような歩容となるのが特徴です。
また、立脚前期から中期にかけて体幹の前傾姿勢を保持しながら支持脚を後方へスイングするため、股関節伸展トルクが大きいことも特徴です。
体幹後傾歩行
股関節伸展と下腿の大きな前傾により、身体重心が後方に残るのを軽減し、膝関節の大きな屈曲により身体を前方へ移動しやすくしていることが考えられます。
また、立脚中期から後期にかけて体幹の後傾姿勢を保持したまま股関節の過度の伸展を防ぐため、股関節屈曲トルクが大きくなります。
つまり、体幹が傾いた歩行では、姿勢変化による身体重心位置の変化に対応するための下肢の代償運動が現れ、体幹の姿勢保持のために大きな股関節トルクが必要となります。
それにより下肢の駆動が抑えられることが考えられます。
よって、股関節周りや体幹筋群の強化が、体幹が変形した高齢者にとって有効な改善策であると言えます。
〈参考文献〉
1)Kirsten Gotz-Neumann (2014) 観察による歩行分析 原著 第1版第14刷 医学書院
2)佐久間享.体幹の前後傾が歩行動作に及ぼす影響に関するバイオメカニクス的研究.バイオメカニズム学会誌,Vol. 34, No. 4(2010)
まとめ
歩行における「体幹」の役割(主に関節の動きと筋活動)と分析ポイント、高齢者の歩行と体幹についてご紹介させて頂きました。
今回は歩行中の「体幹」について取り上げましたが、他にも歩行において着目すべき関節や動き「足関節と中足指節間関節」「距骨下関節」「膝関節」「股関節と骨盤」「腕」があります。
是非、参考にしてみてください。