歩行分析において、各パーツごとの分析を、観察だけで把握することは困難です。
しかし、正常歩行における各関節角度や動きがどのような仕組みなのかを理解しておくことで、観察がしやすくなり、歩行分析力を高めることができます。
歩行分析における関節の角度と動きについて、「運動の範囲」「発生するモーメント」「筋の活動」「機能的意義」という観察すべき4項目の重要性を説明させて頂きました。
この記事では、さらに深堀りして、歩行における「腕」の役割(主に動きの流れと筋活動)についてご紹介させて頂きます。
また、歩行の各相における関節と筋肉の動きを一読後、この記事を読み進めて頂くことを推奨します。
歩行分析における「腕」の動きの流れ
対称的に交互に振られる腕の動きの程度は、人によって大きく異なり、歩行速度に強く影響されます。
歩行速度が大きくなればなるほど、腕の動きが大きくなります。
走行しているときは、肘の屈曲によって腕の振り子は短くなり、それ相応の高い周波数で振られます。
一方、例えば足を引きずるように歩くなどの、穏やかな歩行のテンポにおいては、腕はほんのわずかに振れるか、全く振れません。
歩行時の体幹は骨盤の動きとは逆に運動し、腕は体幹の運動に従います。
遅い歩行速度では体幹の回旋は減少し、それに相応して腕の振りも小さくなります。
Step1:初期接地
初期接地時に同側の腕(肩関節)の伸展は最大となり、立脚終期で同側の腕(肩関節)の屈曲が最大になります。
その交互作用の時間的なずれは0.1秒以内であると報告されています。
歩行時に肩関節の伸展は、同側の脚が前方へスイングされる時に動的な筋制御によって能動的に行われています。
それに対し、同側の脚が伸展方向へ動く時、腕の前方への振りである肩関節の屈曲はほとんど受動的に起こります。
初期接地時は、同側の肩関節も肘関節も最大に伸展しており、肩関節の伸展は8~20°に達します。
肘関節は同時期、約20°屈曲位で歩行周期全体を通してそれ以上伸展することはありません。
Step2:立脚中期
初期接地で肩関節が最大伸展した後、歩行周期の約5%の時点で肩関節は屈曲し始めます。
肘関節は、立脚中期以降でようやく屈曲角度が大きくなっていきます。
これはおそらく、すでに20°程軽度屈曲しているためと考えられます。
立脚終期の終わり頃で肩関節は24°の最大屈曲位に達します。
それからすぐ後に肘関節も45°の最大屈曲位に達し、屈曲運動を終えます。
Step3:前遊脚期
前遊脚期が始まる頃、肩関節と肘関節は同時に屈曲位から伸展し始めます。
この伸展運動は遊脚期の全域にわたって続きます。
肘関節はすでに立脚中期で伸展を終え20°屈曲位に達し、肩関節は同側の初期接地で最大伸展位に達します。
歩行における「腕」の筋活動
肩より遠位の筋(たとえば、上腕二頭筋の短頭、上腕三頭筋の外側頭、尺側手根屈筋、短撓側手根屈筋)は、腕の振りに関与しません。
棘下筋や菱形筋も腕の振りに関与していないという報告もあります。
では、どの筋がどのようなタイミングで活動しているのかを説明します。
Step1:肩甲骨周囲筋
肩甲骨をサポートする僧帽筋下部線維と棘上筋は持続的に活動します。
これらの筋は、水平に走行しており、肩甲骨の位置・動きを適切に保ち、上腕骨頭を肩甲骨に引き寄せて上腕骨を持ち上げる働きがあります。
これらの筋活動は、初期接地のすぐ後に起こり、遊脚終期の終わりまで続きます。
その際、歩行周期の50%の時点で屈筋と伸筋の両方の筋がほんの一瞬活動を休止します。
Step2:肩関節周囲筋
肩関節伸展と屈曲の動きの制動が、大円筋と三角筋の後部線維の制御により顕著です。
三角筋の中部線維の活動は肩関節のほどよい外転に関与し、その結果、腕が体幹に邪魔されず後方に振れます。
立脚終期で屈曲が終わる頃に、三角筋の中部線維が同時に活動し、伸展の動きの間継続して、初期接地の直前で休止します。
歩行周期のその他の相ではこれらの筋は活動しません。
広背筋と大円筋の集合体は、荷重応答期で腕(肩関節)の伸展が終わる頃や前遊脚期で伸展が始まる頃に同時に活動します。
伸展に対し、腕(肩関節)の屈曲の動きはほぼ受動的な運動です。
〈参考文献〉
1)Kirsten Gotz-Neumann (2014) 観察による歩行分析 原著 第1版第14刷 医学書院
まとめ
歩行における「腕」の役割についてご紹介させて頂きました。
今回は歩行中の「腕」について取り上げましたが、他にも歩行において着目すべき関節や動き「足関節と中足指節間関節」「距骨下関節」「膝関節」「股関節と骨盤」「体幹」がありますので、参考にしてみてください。