「歩行分析をするのに、どこをどう見ればいいの?」
「この患者さんの問題は結局何なの?」
「問題がありすぎて、整理しきれない」
などの悩みを抱える理学療法士さんは多いと思います。
歩行分析において、問題点をどのように見極めると、効率よく分析ができるのでしょうか。
ここでは、そんな悩みを抱えるセラピストが、歩行分析において重要な問題点の見極めができるようになるための、9つのポイントをご紹介します。
この記事では、歩行分析の実践として手順を含めた解説をしますので、臨床で使える有益な情報を得ることができます。
歩行分析において主要問題点を見極める必要性
歩行障害と一口に言っても、歩行のどの機能に問題があるのかを最初に見極めておかなければ、評価や治療はできません。
ただ、やみくもに歩行分析をしても、その症例がどのように歩いているかが観察されるだけで、健常歩行との違いが羅列されるだけに過ぎません。
もちろん、健常歩行との違いをきちんと羅列できることは大変重要なことです。
効果的なリハビリテーションを行うためには、評価や治療をする上でターゲットとすべき意味のある課題、つまり主要問題点を見極めることが必要となります。
問題点を見極める上での基本的な考え方
例えば、生まれつきの障害で片足が短く、脚長差のある成人がいます。
健常者と比べると偏った歩き方ですが、歩行は安全で、長年満足した生活をしています。
成人になった今、慣れた歩容を修正して健常に近づけることは必要でしょうか。
脚長差は「問題」なのでしょうか。
このような場合、問題とはなりません。
つまり、全ての症状=問題というわけではないのです。
歩行分析において、このような問題点の捉え方は念頭に置く必要があります。
歩行分析時の主要問題点9つ
歩行分析における9つポイントを、実践的な手順としてご紹介します。
歩行を全体的な流れとして評価することはもちろん大切ですが、歩行を細分化し、それぞれのポイントを評価することにより、問題点を捉えやすくなります。
ポイント①初期接地のアライメント
踵接地の際に、荷重応答に備える下肢のアライメントを配列できるか評価します。
【評価の手順】
①評価対象の下肢を後方に引いた立位姿勢をとらせます。
②後方に引いた下肢を前方に振り出し、反対側の下肢を越えて前方に着地させます。
③膝関節が完全伸展位、足関節が底背屈0°で踵から接地できるかを評価します。
④その際に仙骨が腸骨に対してわずかに前傾しているか確認します。
ポイント②初期接地から全足底接地の足部と下腿部の適切な配列と荷重応答期の衝撃吸収
踵接地から全足底接地までの間で、足部と下腿部が適切に配列されているか評価します。
また、荷重応答期の衝撃吸収メカニズムを評価します。
【評価の手順】
①静止立位から評価対象側の下肢を一歩前に踏み出します。
②膝関節を伸展位にして踵を接地させた肢位から、足関節をゆっくり底屈させながら膝関節を屈曲させられるかどうか評価します。
③このとき、膝が屈曲していく方向が第2中足骨の方向と一致して、下肢が鉛直に配列されているかどうかを確認します。
ポイント③全足底接地から立脚中期の膝関節伸展
全足底接地から立脚中期までの膝関節の伸展を評価します。
【評価の手順】
①静止立位から評価対象側の下肢を一歩前に踏み出し、全足底が接地した肢位から、ゆっくりと脛骨を前方へ傾斜させます。
②次に、股関節を伸展させて下肢が鉛直配列になる位置へ重心を持ち上げられるかを評価します。
このとき脛骨が後方へ傾斜したり、骨盤が後方回旋したりすることなく、膝関節を伸展させられるかを確認します。
ポイント④立脚中期における膝関節の内反角度の中立位化
全足底接地から立脚中期までの膝関節の内反アライメントの中立化を評価します。
【評価の手順】
①評価対象側の下肢を一歩前に出し、全足底が接地した肢位から、股関節と膝関節を伸展させます。
②立脚中期になるまでの間に、下肢が鉛直方向に配列され、膝関節の位置が内方へ変位して大腿骨内側上顆が坐骨結節の真下に配列されるかを確認します。
ポイント⑤全足底接地から立脚中期までの膝関節のscrew home movement
全足底接地から立脚中期までの膝関節のscrew home movementを評価します。
※screw home movementとは
膝関節を屈曲位から伸展すると、大腿骨に対して脛骨が10〜15°外旋します。
この外旋運動は靭帯の緊張によって生じる受動的な運動であり、screw home movementと呼ばれています。
大腿骨の内側関節面と外側関節面の曲率半径の違いから、膝関節が完全に伸展するためにはscrew home movementが必要となります。
【評価の手順】
①評価対象側の下肢を一歩前に出し、全足底が接地した肢位から、股関節と膝関節を伸展させます。
②その際、検者は大腿と下腿を触診し、膝関節が完全伸展する直前に大腿骨がわずかに内旋し、膝関節が相対的に外旋位になり、膝関節が伸展するか確認します。
③また、下腿は回旋することなく、鉛直配列を保持しているかも合わせてみておきます。
ポイント⑥立脚中期以降のコントロールされた足関節背屈と股関節の伸展
立脚中期以降のコントロールされた足関節の背屈と股関節の伸展を評価します。
【評価の手順】
①静止立位から体幹を鉛直に保ち、評価対象の下肢を一歩前に出した位置から、反対側の下肢を一歩前に踏み出します。
②このとき、後方にある評価対象の足関節が背屈しながら股関節を伸展できているかを確認します。
③その際、骨盤が前傾したり、後方回旋していないことを確認します。
ポイント⑦立脚後期の踵離地とforefoot rockerの形成
立脚後期の踵離地、中足指節間関節でforefoot rockerが形成できているか評価します。
【評価の手順】
①評価対象の下肢を一歩前に出した位置から、反対側の下肢を一歩前に踏み出します。
②評価対象の下肢が単脚支持になったら、足関節を底屈させて踵を離地させることができるか確認します。
③反対側の下肢を前方に振り出し、身体重心が評価対象側の下肢を越えて前方へ移動する間、踵を離地させ続けて、中足指節間関節で足部を回転させられるかを確認します。
ポイント⑧踵離地の際の反対側への重心移動
踵離地の際に股関節の外転筋を使って、反対側へ重心を押し出せているかを評価します。
【評価の手順】
①静止立位から評価対象の反対側の下肢を前側方へサイドステップするように振り出します。
②その際、骨盤を水平に保持したまま、反対側へ重心を押し出せているかを確認します。
③母指の中足指節間関節で足部を回転させ、最後まで足部が地面を押し続けられるかを確認します。
ポイント⑨前遊脚期における大腿の前方への加速と遊脚後期の膝関節の伸展
遊脚に必要な大腿部の加速を股関節で産み出せているかを評価します。
【評価の手順】
①下肢を一歩後ろに引いた状態から、体重をゆっくり前方へ移動させながら、膝を前に出すように下肢を前方へ振り出します。
②このとき、股関節の屈曲によって大腿部を前方へ加速できているか、プッシュオフの足関節の底屈と膝関節の屈曲が連動しているかを確認します。
③次に、ボールを蹴るようなイメージで下肢を前に振り出して膝を伸展させます。
踵が接地する直前に膝関節が0°まで伸展し、踵から接地できるかを確認します。
〈参考文献〉
1)石井慎一郎.動作分析 臨床活用講座 バイオメカニクスに基づく臨床推論の実践 第7版 株式会社メジカルビュー社2015
まとめ
歩行分析において重要な問題点の見極めができるようになるための9つのポイントを、手順を含めてご紹介致しました。
臨床実践の前に、セラピスト同士で確認しながら練習してみると良いでしょう。