歩行分析において、正常とは違う異常運動を見極め、原因を追求することは大切です。
しかし、「正常とは何か違うけど、それが何なのか漠然としている」「足趾のような細かい部分でも歩行に影響があるのか」「足趾に異常がある場合、どのような歩行になるのか知りたい」などの悩みを抱える理学療法士さんは多いと思います。
漠然見て歩行分析をするのは至難の業ですが、体の各関節ごとにどのような異常運動があるかを理解しておくと、歩行分析がしやすくなります。
そこで、この記事では、足趾の異常運動が歩行に与える影響を3つご説明致します。
歩行分析における足趾の異常運動3つとは
人間の足趾の主な機能は、つかむことと歩行することであり,立位姿勢の保持や歩行時の立脚後期における推進にとって重要であると言われています。
前足部を構成する足趾は可動性を持っているため、歩行分析において考えると、土台として身体を前方に押しやるための推進力を発生させる役割を果たす部分であるとされています。
足趾の異常運動として、以下の3つの異常運動が観察されることがあります。
①アップ(過伸展)
・指のニュートラルゼロポジションを超えた伸展
②伸展不足
・正常と比較して不十分な中足指節間関節の伸展
・この異常運動は立脚終期と前遊脚期で現れます
③クロートゥ/ハンマートゥ
・DIP関節の屈曲とPIP関節の屈曲または伸展のことを示します
・立脚終期と前遊脚期で出現します
足趾の異常運動①「アップ(過伸展)」
足趾の異常運動であるアップ(過伸展)が歩行にどのように影響しているのか、ご紹介していきます。
アップの原因
アップの原因は以下の通りです。
・前脛骨筋の筋力不足もしくは不十分な背屈に対する代償運動
・深部感覚障害(たとえば多発性硬化症)
・足趾伸展筋の過緊張
アップが歩行のメカニズムに及ぼす影響
アップが歩行のメカニズムに及ぼす影響は以下の通りです。
・支持面の縮小がバランスに対する過度の反応を導く
・場合によっては足の離床に役立つ
・足趾の背側が靴の内部でこすりつけられ、皮膚の炎症やたこができることがある
足趾の異常運動②「伸展不足」
足趾の異常運動である伸展不足が歩行にどのように影響しているか、ご紹介していきます。
伸展不足の原因
伸展不足の原因は以下の通りです。
・足趾の伸展の可動域制限、たとえば外反母趾あるいは強直母趾(立脚中期)
・足趾屈筋群の過緊張
・前足部の疼痛
・踵の持ち上げ不足に伴う二次的現象(立脚終期)
伸展不足が歩行のメカニズムに及ぼす影響
伸展不足が歩行のメカニズムに及ぼす影響は以下の通りです。
・フォアフットロッカー機能が制限され、前方への動きが制限される
・反対側の歩幅が縮小する
足趾の異常運動③「クロートゥ/ハンマートゥ」
足趾の異常運動であるクロートゥ/ハンマートゥ(DIP関節の屈曲とPIP関節の屈曲または伸展のこと)が歩行にどのように影響しているか、ご紹介していきます。
クロートゥ/ハンマートゥの原因
クロートゥ/ハンマートゥの原因は以下の通りです。
・足趾屈筋群もしくは伸筋群の過緊張
・外在筋としての伸展筋群と内在筋のバランスの不均衡
・底屈筋群の筋力不足に対する代償運動
クロートゥ/ハンマートゥが歩行メカニズムに及ぼす影響
クロートゥ/ハンマートゥが歩行メカニズムに及ぼす影響は以下の通りです。
・フォアフットロッカー機能が制限され、前方への動きが制限される
・反対側の歩幅が縮小する
足趾の異常運動と背屈促進ソックス
足趾の異常運動についてご紹介致しました。
足趾すなわち、つま先の運動の重要性がご理解頂けたのではないかと思います。
背屈促進ソックスは、足関節の背屈をサポートするだけでなく、足趾を持ち上げる効果もあります。
背屈(つま先を上にあげる動き)を促進するのを助け、クリアランスを改善する役割があるため、つま先の引っ掛かりを防止することができます。
クリアランスには2種類あり、それはトゥークリアランスとヒールクリアランスです。
特に爪先と床面との距離を示すトゥークリアランスは足趾との関係が深く、クリアランスを確保することができないと、つまずき転倒に繋がるのです。
背屈促進ソックスは転倒防止に効果的である可能性があるため、必要に応じて検討してみてはいかがでしょうか。
〈参考文献〉
1)Kirsten Gotz-Neumann (2014) 観察による歩行分析 原著 第1版第14刷 医学書院
2)上野友愛.歩幅の違いが足趾荷重量と中足趾節関節の 最大伸展角度に与える影響.理学療法科学 28(6):727–730,2013
まとめ
足趾の異常運動が歩行に与える影響についてご説明致しました。
歩行分析において、足関節は着目されやすいため、足関節の関節可動域を評価することは、臨床場面で頻繁にあると思います。
しかし、今回の記事でご説明したように、足趾にも重要な働きがあります。
足趾の関節可動域評価も見逃すことのないよう注意して進めていかなければなりません。
明日からの臨床に活かしていきましょう。
また、歩行分析において、異常運動を観察し評価を進めるために、まず健常歩行の機能ならびにメカニズムを正しく理解しなければなりません。
歩行の各相における関節と筋肉の動き、足関節と中足指節間関節の角度と動きにて、健常歩行における足趾についてご紹介していますので、こちらもご参照下さい。