「高齢者の歩行改善のために、大臀筋を鍛える方法を知りたい」
「大臀筋をしっかり効果的に鍛える運動を知りたい」
「大臀筋を鍛えるメリット、鍛え方を高齢の患者さんに分かりやすく伝えたい」
このような思いを抱えている理学療法士の方は多いと思います。
この記事では、動作における大臀筋の役割、大臀筋を鍛えることによる歩行効果、大臀筋の鍛え方について解説します。
この記事を読むことで、大臀筋を効果的に鍛えて歩行改善に繋げる方法を知り、臨床活動に生かすことができます。
筋肉としての大臀筋の役割
大臀筋の解剖
大臀筋は、臀部を形成する臀筋のうち最も大きく、最も表面にある筋肉です。
股関節と大腿の動きを助ける役割があります。
起始:腸骨外側の後臀筋線、仙骨、尾骨の後面、仙結節靭帯
停止:腸脛靭帯、大腿骨の臀筋粗面
作用:股関節での大腿の伸展、外旋と外転
支配神経:下臀神経(L5〜S2)
歩行時の大臀筋の役割
大臀筋は、遊脚後期から立脚中期にかけて主に活動します。
遊脚後期の活動は、前方へ振り出された下肢の減速に関与します。
また、立脚相では過度の体幹屈曲を防ぐとともに、股関節を伸展させるために働きます。
大臀筋をしっかり鍛えられていると様々な歩行効果がある
転びにくい体になる
大臀筋が弱化すると、立脚期における初期接地時の衝撃を柔らげることができず、バランスが不安定になります。
大臀筋が鍛えられていると、下肢全体で体重をしっかりと支えることができるためバランスが安定し、転びにくくなります。
足のもつれがなくなる
大臀筋は立脚期における荷重応答期において、骨盤の前方動揺を抑える働きがあります。
大臀筋が鍛えられていると、股関節と大腿をしっかり安定させることができます。
すると、前方への推進力がアップするため歩幅が大きくなります。
歩幅が大きくなると足がもつれにくくなり、スムーズな歩行に繋がります。
立ち上がるときや階段がスムーズ
立ち上がり動作において、大臀筋は大きな役割を担っています。
大臀筋は立ち上がり時、前方に加速した身体重心にブレーキをかけるために、適切なタイミングで大きな収縮力を発揮します。そのため、大臀筋の筋力低下があると、結果的に骨盤を前傾できず、重心を前方へ移動できなくなり、手すり等の代償手段を使わないと立てなくなります。
すなわち、大臀筋を鍛えることで、立ち上がる際に前方への重心移動がスムーズになるということです。
また、階段昇降においても大臀筋は非常に重要です。
降段よりも昇段のほうが2倍、大臀筋が活動しています。股関節屈曲位から身体を上方へ移動させるために、大きな股関節伸展筋力が必要となるためです。
よって、大臀筋を鍛えることで、特に階段を昇る時の動作がスムーズになります。
歩く際に疲れにくくなる
長時間歩くためには、筋肉における酸素や栄養素などのエネルギー供給が重要となります。
筋力を向上することは、筋の持久力向上に繋がるため、疲労することなく長時間歩行をすることが可能となります。
大臀筋は臀筋群の中で最も大きな筋肉です。この大きな筋肉を鍛えて筋疲労が生じにくくなることで、効率的に歩行することができ、疲れにくくなります。
他にもこんな効果がある
慢性腰痛
先行研究において、30人の慢性腰痛患者を対象に臀筋群の筋力強化を実施した結果、腰部の柔軟性と大臀筋・中臀筋強化運動が、痛みの期間に関係なく、全ての慢性腰痛患者にとって効果的であった、という報告があります。
すなわち、腰痛を有する期間が長期に渡る人でも、大臀筋の強化によって痛みが改善する可能性があるということです。
冷え性
人は代謝(食べることにより栄養素を取り込み、それをエネルギーに変える)によって熱を生み出しています。
人の体の中で、より多く意識的にエネルギーを生み出すことができるのは、筋肉です。
大臀筋は人間の体の中でも大きな筋肉です。この大きな筋肉を鍛えることで、代謝が上がり、熱エネルギーを生み出すため、冷え性を改善する効果があります。
また、筋肉には血管が集合しており、血液はエネルギー代謝によって全身に熱を運ぶ役割があります。そのため、熱を全身に運び維持することができるのです。
尿もれ
尿もれの原因は、骨盤底筋群の弱化が原因です。なぜなら骨盤底筋群は、尿道や膣や肛門に関わっている筋肉だからです。
骨盤底筋群は、その名の通り骨盤の底にある筋肉ですが、骨盤底筋群だけを動かし鍛えることはなかなか難しいです。
そこで、骨盤底筋群と繋がっている(協働する)大臀筋を鍛えることにより、効果が得られます。
生理痛などの症状
生理痛は、子宮が収縮することによって生じる痛みです。また、生理中は骨盤内の血液が滞り、痛みが強まってしまいます。
そのため、子宮を含む骨盤周りの血行を良くして冷えを予防することが大切です。骨盤周囲筋(中でも大きな大臀筋)を鍛えると、痛みを軽減することに繋がります。
大臀筋を鍛える方法
さて、ここからは大臀筋を効果的に鍛える方法を3つご紹介します。
Walterら(2020)は、大臀筋を効果的に鍛えることができる運動の優先順位を報告しており、その1位はステップアップ、つまり踏み台昇降運動でした。(ただし、この文献の対象者は健康な成人であり、高齢者は除外されている)
そこで、これから紹介する3つは高齢者向けのトレーニングとして活用できるよう、CKC(closed kinetic chain)訓練を中心にご紹介します。複雑ではなく基本的で効果が高い方法です。工夫すべきポイントや注意点も説明します。
また、中道らの報告によると「筋肥大を目的にトレーニングをする場合、20日以上の継続が必要である」と述べています。“継続は力なり“です。
①踏み台昇降
・踏み台の位置:前方
・踏み台の高さ:10〜20㎝(余裕のある方は20〜30㎝だと、より効果的です)
・方法:下記の1クール×2(右が先と左が先)を1回として、計2〜3セット行います。
①〜⑤までを約2秒の早さで行います。
・注意点:休憩を挟みながら行ってください。
体調や既存疾患に配慮し、運動量を調節してください。
1クール
①台の前に立つ
②台の上に右(左)足を乗せる
③台の上に左(右)足も乗せる
④台の上から右(左)足を下す
⑤台の上から左(右)足も下す
※①〜⑤を5分間繰り返す
②ブリッジ
・方法:背臥位になり、両手を頭の上で組み、頭を地面から浮かせます。
次に、膝を約90°に曲げ、お尻を天井に向かって持ち上げます。
この姿勢を10秒間キープしましょう(大臀筋の等尺性収縮)
・注意点:
(ダメな例)
(良い例)
ダメな例は、腰椎伸展が強調され、多裂筋の活動が主となり大臀筋が活動しません。
良い例は、胸腰椎の伸展を抑制し、大臀筋の活動を促すことができます。
・指導のポイント
頭部の挙上ができない場合は、枕を高くして手を胸の上で組ませると良いでしょう。
殿部挙上の際、高く挙げることを目的とせず、あくまでも股関節伸展を促しましょう。
③スクワット
方法:立位で両手を頭の後ろで組み、両足を肩幅より少し広めに開きます。
その状態でゆっくり(1回の屈伸に7秒かける)膝を屈伸します。
注意点:膝の位置がつま先よりも前に出ないようにすると、より効果的です。
難しい場合は、椅子から立ちしゃがみをする方法でも大丈夫です。
<参考文献>
(1)Visible Body ヒューマン・アナトミー・アトラス2021:Argosy Publishing,Inc.,2007-2021.All Right Reserved
(2)石川朗・種村留美(2012)15レクチャーシリーズ 理学療法・作業療法テキスト 運動学 初版第1刷 中山書店
(3)石井慎一郎(2015) 動作分析 臨床活動講座 バイオメカニクスに基づく臨床推論の実践 第1版第7刷 メジカルビュー社
(4)Kirsten Gotz-Neumann (2014) 観察による歩行分析 第1版第14刷 医学書院
(5)伊藤陸・他(2017) 基本動作における大臀筋上部繊維と下部繊維の筋活動について 関西理学 17:33-40
(6)kumar,Tarun(2015) Efficacy of core muscle strengthening exercise in chronic low back pain patients ;Journal of Back and Musculoskeletal Rehabilitatiln,vol.28.no.4,pp.699-707
(7)千住秀明(2005) 理学療法テキストⅢ運動療法Ⅰ第2版第1刷 神陵文庫
(8)Walter Krause Neto (2020) Gluteus maximus Activation during Common Strength and Hypertrophy Exercises:A systematic Review ;Journal of Sports Science and Medicine 19,195-203
(9)中道哲郎(2014) 筋力低下に対するアプローチ 関西理学 14:11-15
(10)浅川康吉・他(2000) 踏み台昇降訓練における股関節周囲筋の筋電図学的分析 理学療法学 第27巻第3号 75〜79頁
まとめ
大臀筋の役割、大臀筋を鍛えるメリット、大臀筋の鍛え方についてご紹介しました。
大臀筋を鍛えることは、歩行改善だけでなく色々なメリットがあることをお分かりいただけたでしょうか。
大臀筋の鍛え方に関しては、高齢者向けで臨床に生かしやすいトレーニング方法をお伝えさせて頂きました。理学療法における指導のポイントもしっかり抑え、早速実践していきましょう。