「歩行中の中臀筋の働きについて知りたい」
「中臀筋は歩行において重要な筋なので、効果的な鍛え方を知りたい」
「中臀筋を鍛えることで、患者さんの跛行を改善したい」
この記事では、そんな思いを抱える理学療法士さんに向けて、歩行中の中臀筋の働きや効果的なトレーニングについて解説します。
中臀筋は、バランスの安定において大変重要な働きをしている筋肉です。
歩行中の中臀筋の役割を今一度整理して考え、明日からの臨床に役立てていきましょう。
中臀筋とは?
中臀筋は殿部を形成する3つの臀筋のうちの1つで、名前が意味するように小臀筋より大きく大臀筋より小さくできています。
中臀筋は、「股関節外転」の主動作筋です。
中臀筋の役割
「股関節外転」の主動作筋である中臀筋の役割について考えていきましょう。
そのためには、基本である解剖の理解が必要です。
中臀筋の解剖
起始:前臀筋線と後臀筋線の間の腸骨翼の外表面
停止:健となって大転子の外方に付着
作用:①股関節外転
②股関節内旋(前部線維・中部線維)
③股関節外旋(後部線維)
※ポイント!
股関節屈曲位での外転では中臀筋は働かない
股関節伸展位での外転でのみ中臀筋が働く
中臀筋は歩行や片足立ち時の安定性を高めてくれる
まず、中臀筋が動作の中でどのような役割をしているのか、考えてみましょう。
中臀筋は、歩行中や片足立ちの時、骨盤を支持するために重要な役割を果たしています。
歩行において言えば、立脚中期に股関節が屈曲0°付近、すなわち直立位まで伸展すると、中臀筋が主動作筋として作用します。
次に、中臀筋が弱い場合、歩行中や片足立ちの時にどんな影響があるのかを考えましょう。
中臀筋弱化のある人の片足立ち
骨盤の水平位を保つことができず、遊脚期下肢の骨盤が落下してしまいます。
この現象をトレンデレンブルグ兆候といいます。
片足立ちの時に患側へ体幹が側屈し、かつ骨盤も傾く現状をデュシェンヌ現象といいます。
中臀筋弱化のある人の歩行
歩行中に患側立脚期でトレンデレンブルグ兆候が現れると同時に、頭部・体幹が患側あるいは健側に傾く2種類の代償運動が生じます。
※臨床場面でよく混在して使用されている下記2つは、整理しておきましょう。
・トレンデレンブルグ歩行:歩行時立脚期にトレンデレンブルグ兆候をきたす歩行
・中臀筋歩行:立脚時に中臀筋の弱い側へ身体を代償的に傾ける歩行
このように中臀筋は、歩行や片足立ち時にとても大きな働きをしています。
中臀筋を鍛えることで、歩行や片足立ちが安定しバランスを取りやすくなります。
真っ直ぐスムーズに歩くことができるのはもちろん、片足立ちで靴下や靴を履いたりなど、日常生活が快適になることは間違いありません。
中臀筋の求心性収縮と遠心性収縮について
中臀筋の収縮の状態について整理しておきましょう。
筋肉の収縮の状態の違いは、このように分類されます。
中臀筋の求心性収縮と遠心性収縮
求心性収縮・遠心性収縮
求心性収縮は筋の起始と停止が近づいていく、すなわち収縮力が負荷より大きい場合です。
遠心性収縮は筋の起始と停止が遠ざかる、すなわち負荷が収縮力より大きい場合です。
つまり遠心性収縮では、筋肉は収縮しようとしながらも、その収縮力よりも負荷の方が大きいため筋肉が伸びてしまい、結果的に起始と停止が遠ざかってしまう状態です。
収縮様式による股関節外転筋筋力は、遠心性の方が求心性よりも力が大きいことが示されています。
また、歩行中の中臀筋の収縮様式としては、立脚期に骨盤の水平位を保持するため、中臀筋は遠心性もしくは等尺性性収縮をしていると考えられています。
中臀筋を鍛えるトレーニング
中臀筋を鍛えるトレーニングを3つご紹介します。
中臀筋は、日常生活では荷重下で働くことが多いのが特徴です。
そのため、CKC(closed kinetic chain)訓練の方が歩行や日常生活に効果が繋がりやすいと考えられますが、中臀筋をピンポイントに鍛える目的であれば、OKC(open kinetic chain)訓練の方が効果的です。
また、中臀筋の活動が最も高い運動を調べたレビュー論文によると、「サイドブリッジ」、「足首弾性バントの立位股関節外転」、「側臥位での股関節外転(81〜103%MVICの範囲)」であると報告されています。
目的や体の状態に合わせて、トレーニングを選択していきましょう。
①OKC訓練(側臥位での股関節外転運動)
これは、求心性収縮→等尺性収縮→遠心性収縮を繰り返す運動です。
【方法】
まず、側臥位になり、床側(図の場合だと右)の手と脚は曲げてバランスを取ります。
左脚を天井に向かってゆっくり持ち上げ、3秒間キープした後、ゆっくり下ろします。
この運動を、左右それぞれ10回ずつ行いましょう。
【代償動作の注意点】
・股関節屈曲位での外転は、中臀筋ではなく大腿筋膜張筋になるので気をつけましょう。
・なるべく股関節外旋の代償を生じないようにした方が、効果が出やすくなります
②CKC訓練(サイドブリッジ)
これは難易度が高めの訓練です。
膝を曲げて行うことで、難易度を下げて実施することができます。
【方法】
側臥位にて膝を曲げ、図(A)のような姿勢を取ります。
股関節が屈曲位にならないよう、伸展0°になるように注意しましょう。
床側の骨盤を持ち上げ、(B)の状態を3秒間キープし、(A)に戻ります。
この運動を左右それぞれ5回〜10回ずつ行いましょう。
【注意点】
・(B)の時、頭→おへそ→膝までを結ぶ線が直線になるようにします。
・ゆっくり持ち上げ、ゆっくり下ろすことを心がけましょう。
③OKC+CKC訓練(立位での股関節外転運動)
片足立ちを取り入れた訓練です。
遊脚側のOKC訓練、立脚側のCKC訓練を同時に行うことができます。
ここでは器具等を使用しない方法をご紹介します。
臨床では、状態に合わせてセラバンドや重錘を使用すると、より効果的です。
【方法】
壁に手をついて(平行棒を持って)、立位になります。
股関節を外転し、その状態で3秒間キープし、元の立位に戻ります。
この運動を左右10回ずつ行いましょう。
【代償動作の注意点】
・体幹が前傾位にならないように注意しましょう。
・つま先が外側を向いたり膝が曲がったりしないように注意しましょう。
<参考文献>
(1)Visible Body ヒューマン・アナトミー・アトラス2021:Argosy Publishing,Inc.,2007-2021.All Right Reserved
(2)石川朗・種村留美(2012)15レクチャーシリーズ 理学療法・作業療法テキスト 運動学 初版第1刷 中山書店
(3)石井慎一郎(2015) 動作分析 臨床活動講座 バイオメカニクスに基づく臨床推論の実践 第1版第7刷 メジカルビュー社
(4)Kirsten Gotz-Neumann (2014) 観察による歩行分析 第1版第14刷 医学書院
(5)千住秀明(2005) 理学療法テキストⅢ運動療法Ⅰ第2版第1刷 神陵文庫
(6)池添冬芽・他(1994) 求心性収縮と遠心性収縮における股関節外転筋力の比較・検討 京都大学医療技術短期大学部要 第14号
(7)Paul Macadam(2015) AN EXAMINATION OF THE GLUTEAL MUSCLE ACTIVITY ASSOCIATED WITH DYNAMIC HIP ABDUCTION AND HIP EXTERNAL ROTATION EXERCISE:A SYSTEMATIC REVIEW;The International Journal of Sports Physical Therapy Volume10,Number5,Page573
(8)市橋則明・他(1995)Closed Kinetic Chainにおける筋力増強訓練の股関節周囲筋の筋活量 理学療法学10(4):203-206
まとめ
歩行中の中臀筋の役割、中臀筋の収縮様式、中臀筋の鍛え方についてご紹介しました。
中臀筋を鍛えることで、歩行や片足立ちが安定し、日常生活において色々なメリットがあることをお分かりいただけたでしょうか。
中臀筋の鍛え方に関しては、高齢者向けで臨床に生かしやすいトレーニング方法をお伝えさせて頂きました。代償動作に注意しながらのアプローチを頭に入れ、明日からの臨床に生かしていきましょう。