脊髄脊椎疾患による歩行の特徴と腰部脊柱管狭窄症時の歩行について

加齢や外傷などにより脊髄脊椎疾患になる人は多いです。脊髄脊椎疾患は様々な神経症状を有し、日常生活に影響を及ぼします。特に腰部脊柱管狭窄症に関しては、40歳以上では、240万人いると推測されています。

主な症状として間欠性跛行が出現し、日常生活や趣味など楽しみの場にも大きく影響するため、それにより、精神的苦痛も強いられます。
 
歩行は、理学療法士にとって、評価する機会が多く、患者様のQOL(日常生活の質)を高めるために、歩行改善を目標に掲げることが多いです。
 
今回のコラムでは、脊髄脊椎疾患を中心に、脊髄脊椎疾患の概要と歩行の特徴を解説し、その中でも、理学療法士が担当することが多い腰部脊柱管狭窄症に関する歩行の特徴に焦点を当てます。

理学療法士として知っておくべき、歩行分析やリハビリの方法についても解説していきます。

脊髄脊椎疾患とは?

脊髄脊椎疾患とは、何らかの原因により、脊椎の中を通る神経が障害される神経疾患です。

主な症状は、腰痛、手足のしびれ、手足の運動障害・麻痺、歩行障害、上肢痛、下肢痛、肩こりなどがあります。それらの症状により、日常生活に大きな支障が生じます。

脊椎脊髄疾患には、年齢とともに骨や椎間板、靭帯などが変形・変性して神経圧迫を生じる腰部脊柱管狭窄症などの脊椎変形性疾患、骨折などによって脊椎の変形や、神経圧迫を生じる外傷性疾患、脊髄腫瘍、出血や梗塞を来す脊髄血管障害、感染や炎症などによる障害、生まれつき脊椎や脊髄に奇形がある先天性疾患もあります。

脊髄脊椎疾患の治療は、原因や症状によって、外科的治療や注射や投薬、リハビリテーションによる保存的治療が行われます。

腰部脊柱管狭窄症

腰部脊柱管狭窄症は、脊柱管内を走行している神経組織(馬尾と神経根)と周囲組織(骨あるいは軟部組織)との相互関係が、何らかの理由で破綻し、神経症状が惹起された状態です。

腰部脊柱管狭窄症を罹患している方は、近年、人口の高齢化に伴い増加していて、40歳以上では、240万人いるとも推測されており、理学療法士が担当する機会の多い疾患です。

主な症状は、間欠性跛行を特徴とし、日常生活や趣味などの楽しみの場にも大きく影響するため、QOLの低下にもつながります。また、それにより、精神的苦痛も強いられます。

脊髄脊椎疾患による歩行の特徴 

脊髄脊椎疾患による歩行の特徴は、疼痛性跛行と神経性間欠跛行があります。

腰椎椎間板ヘルニアや骨折などによる外傷性疾患の場合、急性期には激しい疼痛があり、かばうように手を腰にあてたり、上体をかがめ片側の膝を曲げて歩く疼痛性跛行がみられます。

腰部脊柱管狭窄症の場合、歩行により症状の発現や、憎悪が認められる神経性間欠跛行がみられます。

腰部脊柱管狭窄症による歩行障害について

腰部脊柱管狭窄症の特徴である神経性間欠跛行は、歩き初めには症状はありませんが、一定時間歩行すると、下肢のしびれや痛み、脱力感が生じ歩けなくなってしまいます。

症状は、片側性の症状を訴えることが多いですが、両側性の疼痛を呈する人も稀にいます。

また、自覚症状や他覚所見から、馬尾型、神経根型、そして混合型の3群に大別できます。

神経根型

神経根型では、下肢や臀部の疼痛が特徴です。

馬尾型は、歩行時に、自覚症状として、両下肢、臀部、および会陰部の異常感覚(しびれ、灼熱感、ほてり)があります。しかし、疼痛は訴えません。

また、歩行時にはアキレス腱反射が消失することもあります。混合型は、これらの症状が同時に生じます。

神経性間欠跛行

神経性間欠跛行には、姿勢要素があり、休息時に姿勢を変える(体幹の屈曲、しゃがみ込み)ことにより、下肢に出現した症状が速やかに消失して再び歩き始めることができるようになります。

これは、腰部脊柱管狭窄症では、歩行時に腰椎が伸展され、脊柱管が狭くなり、神経を圧迫して症状が出現しますが、逆に休息時には、腰椎が屈曲され、神経の圧迫が緩み、症状が改善するためです。

腰部脊柱管狭窄症時の歩行分析

腰部脊柱管狭窄症では、腰椎の伸展で脊柱管が狭窄されることにより神経が圧迫され症状が惹起されます。そこで、歩行時には、過度の腰椎の伸展が生じていないかを分析することが重要です。

また、腰部脊柱管狭窄症の歩行の特徴としては、疼痛、しびれ、体幹前傾角度の増大、股関節角度の減少、動揺、歩行持久力の低下、歩行速度や歩幅の減少があります。

したがって、動作分析では、主訴や腰椎の伸展にかかわる体幹や骨盤、股関節の動きの分析、動揺性の分析などが必要となります。

歩行持久力は、その日の状態などによって変動が大きいため、腰部脊柱管狭窄症時の歩行分析では、総合的に評価する必要があります。

腰部脊柱管狭窄症時による歩行障害のリハビリ方法

腰部脊柱管狭窄症は、神経の圧迫を緩めることにより症状が緩和します。

そのため、リハビリでは、腰椎の過度な伸展を防止し、ストレスの少ない姿勢を保持する能力や動作を獲得することが目的となります。

また、日常生活動作などにより、神経が圧迫されている時間が長いと、神経が常に緊張状態になるため、神経をリラックスさせる時間が必要となります。

腰椎の過度な伸展を防止するためには、腰椎の伸展を強めてしまう腰背部筋のストレッチと、腰椎の伸展を防止するための体幹筋を強化する運動が効果的です。

また背臥位で、膝を曲げ台の上に足を上げるなどして体を丸め神経をリラックスさせることも症状改善に効果があります。

また、動作指導では、長時間の立位での作業時は、片足を台に乗せて作業したり、低いところのものを持つときには、膝を曲げ荷物を体に近づけてから立ち上がったり、高いところのものを取るときは、台に上がり高さを調節して作業するなどの姿勢の指導が必要となります。

また、温熱療法などの物理療法、日常生活ではコルセットなどの装具の使用など、様々な方法を用いていくことが症状改善に重要となります。

リハビリで改善しない場合や重症化している場合は、医師と相談し、外科的治療の必要性なども考慮する必要があります。

 

参考文献
(1)国分正一 鳥巣岳彦(2008) 標準整形外科学 第10版 医学書院
(2)大日本住友製薬 腰部脊柱管狭窄症の患者およびその疑いのある人の意識や行動実態を把握するための調査(2010)
(3)井川達也 他 (2014) 腰部脊柱管狭窄症患者における歩行時の体幹前傾姿勢と骨盤,下肢関節機能との関係 第50回日本理学療法学術大会
(4)小松哲郎 (2005) 腰部脊柱管狭窄症における間欠跛行の直線往復歩行,曲線往復歩行および トレッドミル検査の臨床評価 日職災医誌

まとめ

今回は、脊髄脊椎疾患、なかでも腰部脊柱管狭窄症の歩行障害について、その歩行分析やリハビリ方法についても紹介させていただきました。
 
紹介させていただいた内容を活用し、脊髄脊椎疾患、腰部脊柱管狭窄症の理解を深め、詳細に歩行分析を行うことにより、理学療法士がアプローチすることが多い歩行改善において、個々の患者様に合ったプログラム立案の際に役立てていただけたら幸いです。

 

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