歩行分析において、正常とは違う異常運動を見極め、原因を追求することは大切です。
しかし、「正常とは何か違うけど、それが何なのか漠然としている」「足関節に異常がある場合、どのような歩行になるのか知りたい」などの悩みを抱える理学療法士さんは多いと思います。
漠然と見て歩行分析をするのは至難の業ですが、体の各関節ごとにどのような異常運動があるかを理解しておくと、歩行分析がしやすくなります。
今回の記事では、足関節の異常運動「過度の底屈」が歩行に与える影響についてご紹介していきます。
足関節の異常運動「過度の底屈」の歩行分析
足関節の異常運動「過度の底屈」とは、正常よりも底屈が大きい状態を言います。
歩行分析において、「過度の底屈」は、さまざまな異常運動となって現れます。
まず、立脚相においては歩幅と歩行速度を減少させ、前方への動きを制限します。
同時に安定性も制限され、直立姿勢が困難となります。
そして、遊脚相においては、自由な足のスイングを阻害します。
そのため、エネルギー消費を増大させます。
足関節の「過度の底屈」が歩行周期の各相に与える影響
歩行周期の各相ごとに、足関節の過度の底屈がどのような影響を与えるのか、それぞれの特徴について挙げていくので、確認していきましょう。
初期接地
ローヒール
・底屈位で踵接地となります。
・足関節は約15°底屈、膝関節は完全伸展の状態で初期接地します。
・初めに接地するのは踵ですが、そのとき足が床に対してほとんど並行となります。
・それによってヒールロッカー機能は減少します。
フットフラットコンタクト
・足底全体で初期接地となります。
フォアフットコンタクト
・前足部接地となります。
・足関節が20°底屈し、膝関節が20°屈曲した状態で前足部から初期接地します。
・ヒールロッカー機能は消失します。
荷重応答期
過度の底屈の原因と初期接地のタイプによって、荷重応答期には以下のような異常運動が示されます。
フットスラップ
背屈筋群が弱く、前足部が床へ向かう動きが適切に制動されないと、踵の初期接地に続いてすぐに足底が接地します。
背屈筋群の筋力低下により、下腿の前方への動きも十分に行われず、結果として膝関節屈曲も小さくなります。
よって、ヒールロッカー機能は不適切で衝撃吸収が減少もしくは完全に消失します。
フォアフットコンタクト
初期接地は前足部で行われます。
荷重移行期において、前足部接地は2つの観察可能な運動パターンを示します。
足関節に可動性が残っている場合、前足部の接地の直後に踵が荷重によってすばやく床へ落ち、その間、下腿はほぼ直立したままです。
足関節が底屈位で可動性がない場合、2つの異なるパターンがあります。
・踵が床から浮いたままの状態となります。
・踵が床方向へ押され、膝関節が急激に過伸展位に押されます。
立脚中期
過度の底屈を有する患者の場合、立脚中期で3つの典型的な代償運動が起こります。
早すぎるヒールオフ
早すぎるヒールオフは、十分な筋力があり、その他に制限されるものがない患者さんにみられます。
ローヒールで接地し、可動性のない底屈拘縮を有しているにも関わらず前足部より前方へ身体を運ぶことができます。
その際、踵の早期離床がみられます。
すなわち、立脚終期ではなく立脚中期ですでに踵が離床するということです。
膝関節の過伸展
身体の勢いに従い、後傾でブロックされた脛骨の上で大腿骨が前に行こうとする瞬間、膝関節の過伸展が起こります。
この動きに筋力は必要とされず、関節に繰り返し荷重をかけるので、その結果靭帯は伸びざるをえません。
片麻痺や不完全脊髄麻痺、中枢性麻痺の患者さんによくみられます。
膝関節の過伸展の動きの範囲は、成長期の子どもや痙縮のある場合にさらに大きくなることがあります。
体幹の前傾
これは主に身体重心を支持面上に移動させることに貢献するだけで、前方へ向かって歩くことにはわずかしか寄与していません。
体幹の傾きは骨盤の前傾を伴っていることがよくあります。
この姿勢で立位の安定性が得られているわけですが、股関節伸筋群と背筋群は活動を強いられており、時には過負荷となります。
前傾が重度の患者さんは、歩行速度が非常に遅く,正常な歩行速度の15%程度となります。
可動性のない底屈拘縮が立脚中期で適切なアンクルロッカー機能を妨げます。
立脚終期
立脚終期で過度の底屈が歩行のメカニズムに及ぼす影響は、前足部を安定させ、その直上を越えて身体重心を前方へ運ぶ能力に左右されます。
この相で踵離れに至ることができなければ、反対側の歩幅は極めて小さくなります。
歩幅は患肢の膝関節過伸展や体幹前傾が許容する範囲にも影響されます。
踵を持ち上げる十分な勢いと力がある患者さんの場合、その後に控えた本来の底屈運動と過度の底屈の見分けがつきにくいため、ほぼ正常な運動パターンに似た動きを示します。
この動きの流れの中で、身体重心は大きく持ち上げられ、結果として大きなエネルギーが消費されます。
この時、歩幅は小さくなります。
前遊脚期
立脚終期で前足部支持が達成されれば、前遊脚期で顕著な異常運動はみられません。
この相で足関節底屈は正常です。
立脚終期で足底が完全に接地していれば、膝関節は過伸展、体幹は前傾し、反対側に荷重が移った後で患肢の踵が離床します。
したがって、踵離れと遊脚初期のための大腿の動きは非常に遅い時期に起こります。
遊脚初期
この相の始まりで足関節底屈は正常なので、過度の底屈を見分けるのは困難です。
つま先離れのために、股関節屈曲と膝関節屈曲が十分であれば、この相で過度の底屈はその他の影響を及ぼしません。
遊脚中期
過度の底屈は遊脚中期で顕著となります。
この相で距腿関節はニュートラルゼロポジションに戻っているべきですが、足は底屈したままです。
その結果としてクリアランス低下が生じるため、つま先が床をこすり遊脚相が早く終了し、前方移動は大きく阻害され、つまづき転倒の原因となります。
背屈不足に対する頻繁にみられる代償運動は股関節の過度の屈曲運動で、それにより足を振り抜くことを可能にします。
過度の膝関節屈曲が足を床にこすりつけないための代償運動であるかのように、しばしば間違って捉えられることがあります。
簡単に観察できる過度の膝関節屈曲は、大腿が大きく持ち上げられることによる結果です。
遊脚終期
遊脚終期における足と床のクリアランスの点で、過度の底屈はほとんど問題を生じません。
その理由は股関節屈曲と膝関節伸展であり、足関節が底屈していてもクリアランスを保つことができます。
足関節の「過度の底屈」の原因
足関節過度の底屈の原因には、固有感覚受容器損傷の他に4つのカテゴリーがあります。
1.背屈筋群の筋力不足
本来、背屈筋群は床に向かう前足部に適切にブレーキをかけます。
その筋力が弱すぎるとフットスラップが生じます。
背屈筋群が弱すぎる場合、足をニュートラルゼロポジションまで持ち上げられません。
長母指伸筋と長指伸筋と第三腓骨筋の残存する筋が背屈と外反の複合運動を生じさせます。
また、逆の可能性もあり、つまり底屈と回内のコンビネーションです。
大人になってから障害をもった場合、15°を超える過度の底屈はまれであり、これは痙縮を伴う麻痺が原因の場合にも当てはまります。
子供の頃からの背屈筋群の弛緩性麻痺は30°まで、もしくはより大きな角度の受動的底屈の原因となります。
2.底屈拘縮
底屈拘縮は、大きく分けて3つに分けることができます。
30°の底屈拘縮
30°ないしそれ以上の底屈拘縮は、歩行周期のすべての相で観察されうる異常運動の原因となります。
初期接地は前足部で行われ、膝関節屈曲を伴い、この順応は前方移動を容易にします。
フットフラット接地は可能ですが、ほとんど行われません。
立脚相では例外なく前足部から支持面で踵は接地せず、ヒールロッカーならびにアンクルロッカー機能が欠落し歩行は縮小します。
遊脚相で患者さんが代償運動をしなければ、爪先が床をこするトゥドラッグがみられます。
可動性のない15°の底屈拘縮
歩行周期のいくつかの相で観察可能な異常運動の原因となります。
異常の大きさは歩行能力の力強さを反比例します。
出現する異常運動は以下の通りです。
・初期接地におけるローヒール
・荷重応答期におけるフットフラット
・立脚中期における下腿の加速不足
・立脚中期におけるトゥドラッグ
可動性のある15°の底屈拘縮
可能性のある底屈拘縮が外力に負けて動く性質は、足関節が身体重量により背屈することを可能にしているため、初期接地と荷重応答期のみ、足にとって不都合なポジションが生じます。
健常歩行では、立脚中期と立脚終期において腓腹筋とヒラメ筋により制御されますが、可動性のある底屈拘縮の場合にも見かけ上これと同じ動きが観察されます。
可動性のある底屈拘縮は、遊脚中期で背屈筋群の筋力不足の結果と動揺の過度の底屈を示します。
遊脚中期で背屈筋群は、全く抵抗のない状態で足をすばやく持ち上げるMMT (manual muscle testing)3に相当する筋力で活動します。
この筋力では底屈拘縮のある足部を持ち上げることができません。
3.腓腹筋とヒラメ筋の痙縮
痙縮が強い場合、ヒラメ筋や腓腹筋の収縮が持続することがあります。
その場合、歩行パターンが底屈拘縮の場合と似通ったものになります。
この下腿三頭筋の過度の筋緊張は、原始的な伸筋群の共同運動として観察されます。
立脚終期において、大腿四頭筋が立脚準備のために膝関節を伸展し始めると、ヒラメ筋と腓腹筋の協調的な活動が起こります。
遊脚終期で足関節は遊脚中期の背屈位から15°底屈位まで動き、これは片麻痺患者の場合にみられる現象です。
立脚相全般に渡って足関節は底屈が持続し、初期接地から前遊脚期まで影響を及ぼします。
遊脚初期と遊脚中期で足関節は背屈します。
脚を振り出すための原始的な屈筋共同運動が、底屈筋の活動を終わらせます。
そのため足関節はほとんどニュートラルポジションまで背屈し、遊脚中期までその肢位を保持します。
4.大腿四頭筋の筋力不足に対する過度の底屈
筋力が乏しい大腿四頭筋を荷重応答期で発生する膝関節屈曲から守るために、患者さんは正常な選択制御を用いて、ヒールロッカー機能を減少させます。
ヒラメ筋の早期の活動が足を約10°底屈させます。
腓腹筋はほとんど関与しません。
足はローヒールポジションで床に接地し、残りの底屈運動は背屈筋で制御されます。
この運動が下腿の前方への動きを小さくし、それによって膝関節屈曲を防ぎます。
そして制御のための大腿四頭筋の活動を不要にします。
その先の立脚中期における前方への動きの際に、膝関節の伸展を保持するために下腿三頭筋が必要量に相当して働きます。
足関節は背屈を制御され、膝関節の屈曲が制限されるために大腿四頭筋の活動は少なくてすみます。
大腿四頭筋の筋力不足を補うために下腿三頭筋の活動が継続しますが、前遊脚期になると下腿三頭筋の活動が必要なくなるので、この時期に足関節の最大背屈がみられます。
残りの相における足関節背屈は正常となります。
〈参考文献〉
1)Kirsten Gotz-Neumann (2014) 観察による歩行分析 原著 第1版第14刷 医学書院
まとめ
足関節の異常運動「過度の底屈」が歩行に与える影響についてご説明致しました。
明日からの歩行分析に活かしていきましょう。
歩行分析において、異常運動を観察し評価を進めるために、まず健常歩行の機能ならびにメカニズムを正しく理解しなければなりません。歩行の各相における関節と筋肉の動き、距骨下関節の角度と動き、足関節と中足指節間関節の角度と動きにて、健常歩行における足関節についてご紹介していますので、こちらもご参照下さい。