・運動機能に大きな問題がないのに、転倒を繰り返す患者さん。
・普段はスムーズに歩くことができるのに、訓練になると歩行がぎこちない患者さん。
・杖や押し車を使うと、逆に歩行が不安定になる患者さん。
このような患者さんを担当した経験はありませんか?
このような現象が起こる原因として、認知機能の関連が考えられます。
日常生活における歩行では、運動機能だけでなく認知機能にも着目することが必要です。
そこで、歩行における認知機能と、それに関連する二重課題歩行についてご紹介します。
この記事を読むと、歩行分析における認知機能の影響、評価方法や訓練について理解することができ、患者さんのADL向上や転倒予防に役立てることができます。
歩行における認知機能、「二重課題」とは?
日常生活では、例えば歩行者や障害物を避けたり、考え事をしながら歩くなど、歩行と同時に認知処理を要求される状況が少なくありません。
歩行中に話しかけると立ち止まってしまう高齢者は、将来転倒するリスクが高いという研究報告があります。
このように、歩く(運動)と考える(認知)という2つの課題を同時に行うことを、「二重課題」と言います。
二重課題を遂行すると多くの場合、運動と認知のどちらか一方もしくは両方のパフォーマンスが下がってしまいます。
このような二重課題は、日常生活の様々な場面で生じており、歩行において転倒や交通事故などの原因にも繋がる身近な現象なのです。
二重課題歩行とは?
理学療法士、作業療法士が日々の臨床で接する患者さんは、二重課題が生じる日常生活場面での転倒が多い方々です。
二重課題と歩行を組み合わせたものを、二重課題歩行と言います。
二重課題歩行で生じるパフォーマンス低下による転倒を防ぐことが重要です。
その対策として「二重課題歩行トレーニング」と「コグニサイズ」についてご紹介します。
二重課題歩行トレーニング
二重課題歩行トレーニングでは、二重課題の状況に歩行を含め、繰り返し実施します。
「歩幅を狭めて歩く」と「特定のカテゴリーに含まれる単語を述べ続ける言語課題(例:果物がテーマなら「りんご」など)」を同時に行う二重課題歩行トレーニングがあります。
また、「障害物を越えて歩く」と「特定の数から連続して3を引く計算課題」を同時に行う二重課題歩行トレーニングもあります。
つまり、歩くことと考えることを同時処理しなければならないトレーニングです。
二重課題歩行トレーニングを行う際には注意点があり、それは安全面の確保です。
冒頭でもお伝えしたように、二重課題歩行は転倒に繋がりやすい課題です。
リスク管理を徹底し、課題の難易度を患者さんに応じて調整することが必要です。
コグニサイズ
コグニサイズという言葉を聞いたことがありますか?
コグニサイズとは国立長寿医療研究センターが開発した運動と認知課題(計算、しりとりなど)を組み合わせた、認知症予防を目的とした取り組みの総称を表した造語です。
英語のcognition (認知) とexercise (運動) を組み合わせてcognicise(コグニサイズ)です。
このように、基本的には認知症予防を目的として開発されたトレーニングですが、認知と運動の同時処理パフォーマンスへの効果としても期待できます。
二重課題歩行トレーニングの効果
1日に30分から60分、週に3回程度、4週間以上実施することにより、二重課題中のパフォーマンス低下が抑えられたという研究報告があります。
高齢者が二重課題を歩行と組み合わせて訓練をしたことによる効果も報告されています。
また、脳血管疾患罹患後の患者さんやパーキンソン病、アルツハイマー病の患者さんにおいても、二重課題歩行トレーニングの効果が証明されています。
〈参考文献〉
1)木村剛英.二重課題干渉に着目した転倒予防の取り組み.理学療法学33(6)1013-1018.2018
2)上村亜矢.高齢者のカート歩行と認知機能の関係Japanese Journal of Health Promotion and Physical Therapy Vol.9,No.3:127-131,2019
まとめ
歩きながら何かを考える、危険を予測する、物を操作するなどの状況は日常的です。
今回、歩行における認知機能と、それに関連する二重課題歩行についてご紹介致しました。
歩行分析における認知機能の影響、二重課題歩行トレーニングやコグニサイズは効果が証明されている訓練であり、患者さんのADL向上や転倒予防に役立てることができます。
是非、明日からの臨床に活かしていきましょう。