「歩行時の重心移動がよく理解できない」
「重心移動と体重移動は違うの?」
「歩行分析で重心移動を評価できるようになりたい」
と思っている理学療法士さん、スポーツトレーナーさんは多いと思います。
歩行分析において、重心移動を理解しておくことはとても重要です。
健常歩行の重心移動を理解し、その上で異常歩行の重心移動を評価すると、患者さんの歩行における主要問題点を捉えやすくなります。
この記事では、歩行時の重心移動や、体重移動との違い、そして代表的な異常歩行の特徴的な重心移動のパターンについて、解説していきます。
重心移動とは?
まずはじめに重心とは、物の重力を1つの点にまとめた点、すなわち作用点のことです。
人間の場合、重心は骨盤内で仙骨のやや前方に位置しています。
体型による個人差はありますが、重心の位置を地面から測ると、成人では身長の55〜56%の位置にあります(静止立位の場合)。
重心移動とは、その重心位置を移動させることを示します。
人間で言えば、椅子から立ち上がる時には、重心の位置は前方→上方に移動します。
少し遠くにある右側の物を取ろうと手を伸ばす時は、重心の位置は右に移動します。
このように、重心が移動することで身体のバランスを保ったり、動きを変化させることができます。
重心移動と体重移動の違い
重心移動と体重移動は同じだと思っている方は多いのではないでしょうか。
言葉の説明では伝わりにくいかもしれないので、下記画像で重心移動と体重移動の違いを説明します。
赤線が体重(“足裏”から地面に伝わる力)、★が重心位置です。
左の画像 “普通の立位” から右の画像 “足を背屈する” のように動きが変わった場合、重心と体重はどのように移動しているでしょうか。
体重は後方(“踵”から地面に伝わる力)へ移動しますが、重心は後方へ移動していません。
もし、体重移動と同じように重心移動も後方へ移った場合、どうなるでしょうか。
間違いなく、後方へ転倒しそうになります。
このように、重心移動と体重移動は別であり、人間がバランスを保ち円滑な動作を行うために、それぞれが微調整をしています。
歩行時における重心移動について
歩行時における重心移動についてご紹介します。
歩行時における重心移動は、上下と水平方向の2つの自然な動揺が組み合わさって移動します。
この、上下と水平方向の2つの自然な動揺が適切な範囲で発生し、それらがスムーズな前進の源となることで、滑らかに直線方向に進むことができ、効率的でバランスの良い歩行が実現できます。
では、健常歩行の場合、各歩行周期において上下と水平方向の重心移動がどのように生じるのかを説明します。
上下方向の重心動揺
立脚中期に最高となり、両脚支持期に最低となります。
動揺の大きさは約2cmです。
水平方向の重心動揺
立脚中期に最も側方へ移動します。
動揺の大きさは約4cmです。
健常歩行と比較して歩行分析
健常歩行の重心移動を実際の歩行分析に応用することが必要となります。
患者さんの歩行において、健常歩行の重心移動のパターンの内どの部分で逸脱があるのか、それを評価することにより、歩行における主要問題点を捉えることが出来ます。
しかし、観察による歩行分析だけで正確な重心移動やバランスを把握するには限界があります。
客観的・定量的な歩行評価のできるデバイスを使用することで、効率的な歩行分析が可能となり、患者さんに分かりやすくフィードバックすることもできます。
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代表的な異常歩行の重心移動の特徴
歩行時の重心移動に関して、代表的な異常歩行ではどのようなパターンになるのかをご紹介します。
特に、臨床において担当することが多い代表的な3つの異常歩行(片麻痺患者の歩行、パーキンソン病患者の歩行、失調患者の歩行)における重心移動についてご説明します。
片麻痺患者の歩行
片麻痺患者の麻痺側方向への重心移動能力は、非麻痺側方向に比べて低いのが特徴です。
歩行能力は、重心移動範囲の増大に強く関連しています。
片麻痺患者において、歩行不能な段階から歩行が可能になる段階までの重心移動の範囲は大きく拡大したという報告があります。
つまり、片麻痺患者における歩行能力の改善には、まず麻痺側への重心移動能力の改善が必要であること、そして歩行の安定化には前後・左右方向への重心移動の拡大が必要だと言えます。
パーキンソン病患者の歩行
小刻み・すくみ足歩行を呈するパーキンソン病患者の歩行に関する研究によると、健常歩行と比べて、左右への重心動揺が少なかったことを報告しています。
パーキンソン病に特徴的な体幹の棒状化により重心移動が十分になされず、下肢は体重支持を余儀なくされるために振り出しが困難になります。
また、パーキンソン病患者は足関節の固さが特徴であり、これも重心移動を小さくする原因と考えられています。
失調患者の歩行
失調歩行は四肢・体幹の円滑な運動が障害され、一定の歩幅で歩くことができません。
特に側方への大きな重心動揺が目立ち、非常に不安定なのが特徴ですが、両足を広く開く(ワイドベース)することで、ある程度バランスを保つ代償としています。
しかし、前後方向については一歩ごとの歩行に伴う重心動揺をコントロールするために歩幅を狭くして、歩行速度を落とすことによって代償します。
〈参考文献〉
1)望月久.脳卒中片麻痺患者の歩行能力と重心動揺、重心移動域との関連性.理学療法学 13(1):7-10,1998
2)外山治人.すくみ足・小刻み歩行を呈するパーキンソン病患者に対する歩行訓練について.理学療法学第18巻第5号521〜527頁(1991)
3)望月久.脊髄小脳変性症歩行能力と重心動揺.運動整理5(1):9-14,1990
まとめ
歩行時の重心移動や、体重移動との違い、そして代表的な異常歩行の特徴的な重心移動のパターンについて、ご紹介させて頂きました。
理学療法士さん、スポーツトレーナーさんにおいて、歩行時の重心移動を理解しておくことは基本であり、実践で生かしていく必要があります。
歩行分析において、重心移動を意識した問題点の把握、治療プログラム立案ができるよう、しっかりと頭に入れておきましょう。