みなさんは「反張膝」という言葉を聞いたことがありますか?
正常よりも膝が伸びすぎてしまう状態のことですが,歩行と深く関係しています。
今回は反張膝の原因や歩行との関係,対応方法などについてご紹介します。
「反張膝」とは?
反張膝とは,膝が正常よりも伸びすぎてしまう状態のことをいいます。
膝関節は太ももにあたる大腿骨とすねにあたる脛骨によって構成され,伸展(伸ばす)方向の参考可動域は0°とされています。※1
そのため,立ったときや歩いているときに膝が0°以上に伸びてしまう状態のことを反張膝とよびます。
反張膝の原因とは?
歩行の研究で有名なPerry博士は,歩行中に膝が伸びすぎてしまう(反張膝が発生する)理由について,以下を挙げています。※2
①大腿四頭筋(膝を伸ばす筋肉)の筋力低下
②大腿四頭筋の痙縮
③膝関節の疼痛
④足背屈筋(前脛骨筋;つま先を上げる筋肉)の筋力低下
⑤足底屈筋(下腿三頭筋;かかとを上げる筋肉)の痙縮
⑥股屈筋(大腿直筋,腸腰筋;股関節を曲げる,太ももを持ち上げる筋肉)の筋力低下
それぞれについて解説します。
①大腿四頭筋(膝を伸ばす筋肉)の筋力低下
人の正常な歩行では,かかとをついた後に膝関節が素早く曲がろうとします。
このとき,膝を伸ばす筋肉に筋力低下があると,この動きを制御できずに膝が曲がりすぎて転倒するおそれがあります。
そのため,筋力低下を自覚している人は膝を伸ばしたまま歩こうとしてしまい,荷重軸が膝関節の真ん中よりも前を通るため膝を伸ばそうとする強い力が働いてしまいます。
②大腿四頭筋の痙縮
痙縮とは筋肉が緊張しすぎて関節を動かしにくくなってしまっている状態をさします。
脳卒中など中枢神経の病気やその後遺症で生じることがあり,大腿四頭筋の痙縮があらわれると,先ほど述べた歩行中の膝関節運動を邪魔してしまうことになります。
結果として膝を伸ばしたままで荷重を行い,さらに膝を伸ばすような大きな力が加わります。
③膝関節の疼痛
膝は荷重(体重が加わる)関節です。荷重したときに痛みがある方の多くは,なるべく膝に力を入れず,関節を大きく動かさずに歩こうとします。
結果として膝を伸ばしたままの着地,荷重となってしまいます。
④足背屈筋(前脛骨筋;つま先を上げる筋肉)の筋力低下
つま先を上げる筋肉に筋力低下が生じると,歩行中に足をつくとき,かかとからではなく足の裏全体で地面に接地してしまいます。
その結果,荷重が足の前方へ移動することで荷重軸が膝関節の中心よりも前方を通り膝が強く伸ばされてしまいます。
⑤足底屈筋(下腿三頭筋;かかとを上げる筋肉)の痙縮
足底屈筋に痙縮が生じると,足関節を背屈(つま先を上げる)ことが難しくなり,④と同じような状況がうまれます。
さらに,足の裏が床についた状態で以下⑥に続きます。
⑥股屈筋(大腿直筋,腸腰筋;股関節を曲げる,太ももを持ち上げる筋肉)の筋力低下
股関節を曲げる筋肉は,足が地面についている場合には膝が伸びすぎてしまうことを防ぐ働きを持ちます。
そのため,筋力低下によってその作用が小さくなった場合には膝が過度に伸ばされる可能性があります。
反張膝は問題なのか?
ここまでに反張膝がどのようなものなのか,そしてその原因について説明してきました。
しかしながら,そもそも反張膝は歩行にとって有害なのでしょうか.反張膝の良い点,悪い点について説明します。
反張膝は膝を伸ばす筋肉の筋力低下によって生じることを説明しましたが,裏を返せば膝を伸ばす筋力が小さくても反張膝を用いれば歩くことが可能になります。
先ほど説明した中枢神経の病気によって膝を伸ばす筋力が低下している方であっても,反張膝を用いて筋肉ではなく靭帯に代表されるようなその他の組織によって膝関節を支えて歩くことができます。これは大きなメリットといえるでしょう。
一方で,反張膝をともなう歩行を長く続けることにより関節まわりの組織にストレスが加わり続けることによって,膝関節が不安定になり,痛みを伴う場合があります。
そのような症状が出現した場合には,膝の装具や人工関節などで治療せざるをえず(※3),反張膝をともなう歩行のデメリットといえるでしょう。
まとめ
今回は歩行中に膝が通常よりも過度に伸びすぎてしまう反張膝についてその原因や良い点・悪い点について説明しました。
自分自身の歩行がどのようなものなのかを正しく認識し,将来のケガや不調を予防するのは大事なことですね。
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※1 関節可動域表示ならびに測定法,日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会,1995
※2 Perry J: Gait Analysis, pp. 223-243, SLACK incorporated, New Jersey, 1992.
※3 吉原ら:軽度屈曲拘縮膝に対してTKA 施行後早期に反張膝を呈した1 例.JOSKAS Vol 45:378~379,2020
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