「自分の体に適した杖の選び方を知りたい」
「どうやって杖を選べばいいのだろうか。杖の正しい選び方を教えて欲しい」
「そもそも歩行リハビリで使う杖には、どんな種類や特徴があるのかわからない」
そんな悩みを抱える方は多いと思います。
杖を正しく選ぶことができると、歩行は良くなり、リハビリも捗ります。
しかし、間違った選び方をしてしまうと、逆効果になってしまう場合もあるのです。
この記事を読むと、杖の種類や特徴、正しい杖の選び方を知ることができ、自分の体に適した杖を選ぶことができるため、長期的に歩行を改善することができます。
杖を買う前に、一度この記事を読んで、杖選びの参考にして頂ければと思います。
歩行リハビリにおける杖の役割について
まず、歩行リハビリにおける杖にはどのような役割があるのかをご紹介します。
「そもそも杖はなぜ必要なの?」「杖を使うメリットは何?」という疑問を解決します。
歩行が安定する
杖が最も役割を発揮するのは安定感です。
人が立ったり歩いたりする時の安定感は、「支持基底面」によって左右されます。
支持基底面とは下の絵の赤い面を示します。
支持基底面が広いほど、バランスが安定します。
杖をつくことで支持基底面が広がり、歩行が安定するというわけです。
足腰にかかる負担を減らす
人は二足歩行の生き物ですが、人類の歴史を辿ると、もともとは四足歩行でした。
生きるためには手を自由に使う必要があり、二足歩行に進化しました。
よって、もともと人の体は二足歩行に適した形ではないので、足腰に負担がかかりやすいという特徴があるのです。
杖をつくことで、二本足で支えていた体重が杖に分散されます。
すると、二本足にかかる体重は減り、足腰への負荷が少なくなるのです。
杖の先で障害物や段差がわかる
「転ばぬ先の杖」という言葉があります。
これは、失敗しないように万が一に備えてあらかじめ十分な準備をしておくことの例えとして示される言葉ですが、実際の歩行でも同じことが言えます。
基本的に杖は、足よりも先につきます。
そのため、障害物や段差などを杖で確認することができ、転ぶ失敗を事前に防ぐことができるのです。
安心感
長時間歩いていて足腰が痛くなったらどうしよう…
足場の悪い道を歩いている時、バランスを崩して転ぶかもしれない…
という不安は、年齢を重ねるにつれて現れてくるものです。
そんな時に杖があれば、とても心強く、安心して出掛けることができます。
特に足の感覚が鈍くなっている場合には、杖をつくことでかなり安心できます。
杖の選び方
次に、杖の選び方について解説していきます。
自分の体に適した正しい杖の選び方を学んでいきましょう。
身長にあった適切な長さを選ぶ
杖の長さの調整は、とても重要です。
なぜなら、長さ合っていない杖を使うと歩行が安定しないどころか、足腰に痛みが生じる場合も少なくないからです。
杖の長さの設定は、杖の種類によってそれぞれ異なります。
杖の長さは、おおまかに「身長÷2+3cm」が一般的に適正と言われています。
しかし、これでは正確な長さ調整はできません。
正確な長さの調整には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
グリップが握りやすい
グリップの握りやすさも、杖を長期間使用する上で大切なポイントです。
例えば、指が曲がりにくかったり、握力が弱い場合には太めのグリップが適します。
固さや形も豊富なので、実際に使用してみて心地よいものを選ぶことをお勧めします。
軽くて丈夫な素材を選ぶ
近年、杖はかなり進化しているので、軽くて丈夫な素材の杖が殆どです。
歩行能力や体の状況に合わせて選ぶ
これは、杖を選ぶ上で最も重要な点と言えるでしょう。
「自分の歩行能力がどの程度かわからないので、とりあえず一番安定できる杖にしていれば問題ない」と思って、ほぼ杖に頼って歩いている方もいます。
しかしこの場合、転ぶ不安は減りますが、杖に頼り続けた結果、足腰が弱ってしまう可能性も大いにあります。
では、自分の歩行能力や体の状況に適した杖はどれなのでしょうか。
次の項目にて、杖の種類と特徴を一つ一つ説明していきますので参考にして下さい。
杖の種類・特徴
杖の種類・特徴について一つ一つご紹介していきます。
T字杖
T字杖とは、T字型の一本杖を示します。
機能性や値段は幅広く、100円ショップでも購入できるものもあります。
T字杖の特徴
T字杖は、日常的に使用しやすいのが特徴です。
折りたたみ可能で鞄に収納できるタイプもあり、利便性が良いというメリットがあります。
T字杖はこんな人におすすめ
T字杖は、片方の足の力が弱い場合や痛みがある場合、足裏や足先を含め足全体の感覚が鈍い場合、バランスが少し不安定な場合、軽い片麻痺の場合、足の関節に制限がある場合などにお勧めです。
T字杖の正しい使い方
●長さの設定と持ち方
杖は健側で持ちます。
「自然に立った状態で、つま先の約15cm前、15cm外側に杖の先を置き、その時に肘が20°〜30°曲がった状態で、握り部分が大転子の高さ」¹⁾が基準です。
大転子とは、股関節の外側を押さえると触れることのできる骨です。
持ち手がT字型になっており、このT字の交差部分を人差し指と中指で挟んで持ちます。
持ち方が逆になっていたり、指で挟まずに持っている方もいますが、それでは不安定です。
●歩き方
3動作歩行:
杖→患側→健側の順番で歩きます。
安定性は良いですが、その分スピードは遅くなります。
2動作歩行:
杖と患側→健側の順番で歩きます。
3動作よりも不安定にはなりますが、その分スピードは速くなります。
ロフストランド杖
ロフストランド杖とは、T字杖よりも長く、腕をはめるためのカフと呼ばれる支えが装着されている杖です。
ロフストランド杖の特徴
ロフストランド杖は、T字杖と違って、腕を固定して支える役割があるのが特徴です。
腕をはめるカフの位置や手で握る部分の位置は調整可能となっています。
ロフストランド杖はこんな人におすすめ
ロフストランド杖は、T字杖を使うために必要な握力が乏しく、腕全体が疲労してしまう場合などに使用します。
例えば、軽度のバランス低下があり、握力も低下している頚椎損傷などが適応となります。
ロフストランド杖の正しい使い方
●長さの設定と持ち方
T字杖と同じですが、腕をはめるカフと手で握る部分の位置設定が大切です。
肘より少し遠位くらいに調整すると良いでしょう。
持ち手の部分はT字杖と同じ握り方です。
●歩き方
歩き方はT字杖と同じです。
T字杖よりも腕支えがしっかりしてるので歩行が楽に感じます。
松葉杖
松葉杖は、脇当がついており、松葉型をしている杖です。
松葉杖の特徴
一本杖よりも大きく太く重いのが特徴です。
通常は2本1組で使用します。
松葉杖はこんな人におすすめ
歩く時に脇から支えなければ歩行困難な場合に勧められます。
例えば、片足を骨折して体重をかけられず常に浮かせる必要がある場合などです。
松葉杖の正しい使い方
●長さの設定と持ち方
脇の下は2から3横指分(指2本から3本分)隙間をあけ、持ち手の部分はT字杖と同じように調節します。¹⁾
この時、肘が少し曲がるくらいの位置で設定します。³⁾
●歩き方
まず、松葉杖を先に前に出し、脇当部分にもたれかかるのではなく、体側と腕でしっかりと挟み、持ち手の部分に体重をかけて健側を前に出します。
脇当部分にもたれかかって歩くものだと勘違いしている方は多いのですが、それでは脇の下の神経が圧迫されて痛みやしびれ(腋窩神経麻痺)がでる恐れがあるので注意が必要です。
また、立ちしゃがみの時にも注意が必要です。
立ち上がる時に、先に松葉杖をもってしまうと不安定で転倒リスクがありますので、まずは椅子を押して健側で立ち上がり、その後に松葉杖を持つようにしましょう。
しゃがむ際も、松葉杖を隣に置き、健側で片足立ちになった状態でしゃがみます。
多脚杖
多脚杖とは、3本から5本に分岐した床面に接する脚と、ひとつの握りを持った杖のことをいいます。
多脚杖の特徴
T字杖と似ていますが、多脚杖のほうが支持基底面が広く安定感があるのが特徴です。
また、T字杖と違って自立するので便利ですが、少し重たいです。
多脚杖はこんな人におすすめ
筋力低下や麻痺がある方、特に中枢神経麻痺等で歩行が高度に障害されて他の歩行補助杖では歩行能力が改善されない場合に適応となります。
多脚杖の正しい使い方
杖の長さ設定や持ち方は、T字杖と同様です。
肘支持型杖
肘支持型杖は、別名プラットホーム杖とも呼ばれます。
ロフストランド杖と似ていますが、前腕と肘で支持して腕に固定して使用する²⁾杖です。
肘支持型杖の特徴
ロフストランド杖は肘が伸びた状態に近いですが、肘支持型杖は肘を曲げて使用します。
肘から腕全体が支持面となるのが特徴です。
肘支持型杖はこんな人におすすめ
リウマチ等で握力が極端に弱く、手首に負担をかけられないために前腕や肘での支持を必要とする方にお勧めです。
肘支持型杖の正しい使い方
肘から腕全体を、支持面にしっかり固定して握ります。
歩き方はT字杖と同様です。
記載する内容は以下3つの資料を参考にまとめています。
【参考】
1)厚生労働省「障害者支援機器の活用ガイドブック」
2)厚生労働省「補装具ガイドブック」
3)財団法人テクノエイド協会「歩行補助用具の活用」
まとめ
杖の種類や特徴、正しい杖の選び方についてご紹介させて頂きました。
杖は間違った選び方や使い方をしてしまうと、せっかくの杖がただの飾りになってしまい、歩行が良くなるどころか、逆に体に負担がかかってしまう場合もあります。
自分の体に適した杖を選び、長期的に歩行を安定させていきましょう。