トレンデレンブルグ歩行とデュシャンヌ歩行の違いとは?特徴や原因・改善する方法を紹介

トレンデレンブルグ歩行とデュシャンヌ歩行の違いがよく分からないと悩むセラピストさんは多いと思います。

実際には、トレンデレンブルグ歩行とデュシャンヌ歩行が同時に生じる場合もあり、その見分けは大変難しいのが現実だと思います。

患者さんの歩行をパッと見て判断できるようになるには分析の経験が必要ですが、その経験を裏付ける正しい知識の積み重ねが大切です。

この記事では、トレンデレンブルグ歩行とデュシャンヌ歩行のそれぞれについて、特徴や原因・改善方法を解説しますので、理解を深めていきましょう。

トレンデレンブルグ歩行とデュシャンヌ歩行の違いとは?

それぞれの歩行の違いを考える前に、トレンデレンブルグ兆候デュシャンヌ兆候について理解しておくことが必要です。

まず、トレンデレンブルグ兆候とデュシャンヌ兆候の違いを整理しましょう。

トレンデレンブルグ兆候は、「患側下肢での片脚立位時に、骨盤の水平位を保つことができず遊脚側下肢の骨盤が落下する現象」¹⁾です。

デュシャンヌ兆候は、「患側下肢での片脚立位時に、患側へ体幹が側屈し、かつ骨盤傾斜も起こる現象」¹⁾です。

これらの兆候が、歩行立脚期に生じると、それぞれ「トレンデレンブルグ歩行」「デュシャンヌ歩行」と呼ばれます。

つまり、両歩行とも患側立脚期において、「健側の骨盤が落下する」のがトレンデレンブルグ歩行、「患側へ体幹が傾き、骨盤も傾く」のがデュシャンヌ歩行となります。

ただし、冒頭でご説明したように、トレンデレンブルグ兆候とデュシャンヌ兆候が同時に生じる歩行もあります。

また、静止片脚立位(患側)の評価をした時にはトレンデレンブルグ兆候が出現したからと言って、必ずしも歩行中にトレンデレンブルグ兆候が出現するとは限りません。

静止片脚立位(患側)ではトレンデレンブルグ兆候が出現するが、デュシャンヌ歩行を呈する場合も少なくありません。

歩行を連続的な動きの流れとして捉え、体幹や骨盤の動きを分析することが大切です。

1)石井慎一郎(2015) 動作分析 臨床活動講座 バイオメカニクスに基づく臨床推論の実践 第1版第7刷 メジカルビュー社

トレンデレンブルグ歩行とは

トレンデレンブルグ歩行とは、「歩行の立脚相において立脚側の中殿筋を主体とした股関節外転筋の弱化により、骨盤が遊脚側へ下制する現象」²⁾³⁾です。

つまり、「患側の立脚期に、健側の骨盤が落下する歩行」と言えます。

2)鳥巣岳彦(2011) 標準整形外科学 第11版 p562-563,866 医学書院
3)中村隆一(2010) 基礎運動学 第6版 p244-245,395 医歯薬出版

トレンデレンブルグ歩行の特徴

トレンデレンブルグ歩行の特徴は、患側下肢での立脚期に、骨盤の水平位を保つことができず遊脚側下肢の骨盤が落下する現象です。

下の絵は、トレンデレンブルグ歩行の特徴をわかりやすく表現しています。

基本的には下の絵のように、体幹は水平位のまま骨盤が落下する現象ではありますが、実際は体幹が少し遊脚側に傾くこともあれば、体幹だけでなく頭部も傾く場合もあります。

側弯を合併している場合は特にわかりにくい傾向があるので注意が必要です。

トレンデレンブルグ歩行の原因

トレンデレンブルグ歩行の原因として最も代表的なのは、立脚期に骨盤を水平位に保つために必要な機能である、中殿筋を主体とした股関節外転筋の機能低下です。

股関節外転筋の機能低下は、股関節の疾患や手術によって外転筋群(中殿筋、大殿筋、小殿筋、大腿筋膜張筋)の筋力が低下した場合に生じ、代表的な疾患として変形性股関節症があります。

また、脳血管障害片麻痺を呈する症例において、歩行の麻痺側立脚相で麻痺側股関節内転による骨盤の非麻痺側下制が生じ、安定性低下を認めることがあります。

つまり、片麻痺による股関節外転筋群の筋緊張低下によっても生じるということです。

股関節内転筋の筋緊張亢進により、股関節外転筋をタイミングよく筋発揮できない場合、トレンデレンブルグ歩行を呈することがあります。

4)藤本将志他(2020) トレンデレンブルグ現象を特徴とする脳血管障害片麻痺の症例に対する自主トレーニング 20:28-34 関西理学

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トレンデレンブルグ歩行を改善する方法

トレンデレンブルグ歩行を改善するためには、股関節外転筋(特に中殿筋)の強化が重要となります。

また、中殿筋など個別筋へのアプローチも必要ではありますが、歩行という動作の流れの中で、抗重力位で中殿筋を上手く発揮する練習も大切です。

サイドステップ(横歩き)、ラテラルステップダウン(段差を使用した片脚スクワット)、フロントランジ(大きく一歩前に出して膝を曲げる)は、特に中殿筋の筋活動が多いため、訓練に取り入れると良いでしょう。

5)鈴木裕也(2018) CKC運動における中殿筋・大殿筋・大腿筋の筋活動量はどの運動が多いか 第53回日本理学療法学術大会抄録集 VOL.46

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デュシャンヌ歩行とは

デュシャンヌ歩行とは、歩行の患側立脚相において、患側へ体幹が側屈し、かつ骨盤傾斜も起こる現象です。

疼痛性跛行(下肢に疼痛があり、痛みを避ける歩き方)との違いは、患側へ乗りかかるような歩行を生じる点にあります。

つまり、一般的に下肢に痛みがある場合、痛みのある脚に体重を乗せることを避けて歩くのが特徴ですが、デュシャンヌ歩行の場合は患側に体重を乗せて歩くのが見分け方です。

6)冨士武史(2008) 整形外科疾患の理学療法 p152 金原出版株式会社

デュシャンヌ歩行の特徴

デュシャンヌ歩行の特徴1つ目は患側へ体幹が側屈すること、2つ目は骨盤が傾くことです。

下の絵は、臨床でよくみられる歩行の代償運動2つを表しています。

左の絵は、デュシャンヌ歩行(患側に体幹が傾く)と逆トレンデレンブルグ歩行(骨盤が患側へ傾く)です。

右の絵は、デュシャンヌ歩行(患側に体幹が傾く)とトレンデレンブルグ歩行(骨盤が健側に傾く)です。

デュシャンヌ歩行の原因

デュシャンヌ歩行の原因は、基本的にトレンデレンブルグ歩行と同様、股関節外転筋群(中殿筋を主とした)の機能低下です。

ではなぜ、同じ原因であるにも関わらず、異なる現象が生じるのでしょうか。

それは、デュシャンヌ歩行には代償運動が関係していることが理由です。

外転筋の緊張による骨盤の水平位保持の場合は体重の3倍以上の圧がかかりますが、股関節上に体重を乗せると体重から一側下肢の重さを引いた力しか股関節にかからないためです。⁶⁾

つまりデュシャンヌ歩行は、外転筋の機能低下を補う目的で、外転筋の緊張における圧を減らすための代償運動として、患側へ体幹が傾くという現象が生じているのです。

6)冨士武史(2008) 整形外科疾患の理学療法 p152 金原出版株式会社

デュシャンヌ歩行を改善する方法

デュシャンヌ歩行を改善するには、基本的にトレンデレンブルグ歩行と同様、股関節外転筋群(中殿筋を主とした)の強化が必要となります。

ただ、デュシャンヌ歩行は、トレンデレンブルグ歩行と異なり、代償運動として股関節外転筋の緊張における圧を避ける形をとりますので、その形を学習している傾向があります。

そのため、中殿筋の強化と共に、代償が生じない歩容の学習を進めていく必要があります。

まとめ

トレンデレンブルグ歩行とデュシャンヌ歩行の違いを理解するため、それぞれの特徴や原因・改善方法を解説致しました。

記事中に載せた絵のように代表的でわかりやすい歩行を呈する患者さんは少なく、一見違いがわかりにくいのが現実です。

しかし、トレンデレンブルグ歩行とデュシャンヌ歩行それぞれの機序を知ることで、歩行分析における評価の視点が深まります。

何か1つでも明日からの臨床の参考になれば幸いです。

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