加齢によって歩行時に足が前に出にくくなったり、歩くのが遅くなるのはなぜでしょうか。
同じ速さで歩いていても、若い人よりも高齢者のほうが疲労しやすいのはなぜでしょうか。
背の低い人よりも高い人のほうが歩くのが速いのはなぜでしょうか。
それには、「歩行時の推進力」が大きく影響しています。
歩行分析を行う上で、歩行時の推進力はどのようにして生み出されているのかを把握し、歩行時の推進力低下の原因と予防方法を周知しておくことはとても大切です。
歩行時の推進力とは?
歩行時の推進力とは、歩いて前に進む力のことを示します。
歩行の推進力を測る指標として、歩行速度、歩幅、歩行率(1分間の歩数)があります。
歩行速度は、歩幅と歩行率により増減します。
つまり、歩行速度を増加するためには、歩幅が一定であれば歩行率を増加しなければならず、歩行率が一定であれば歩幅を増加しなければなりません。
では、歩行時の推進力は、どのような仕組みで生み出されているのでしょうか。
歩行周期において、重量に抗して身体を持ち上げる力が最も大きく、床反力垂直成分が最大なのは荷重応答期と立脚周期です。
荷重応答期はブレーキのための衝撃吸収、立脚周期は推進のための蹴り出しとして大きく働いています。
つまり、歩行周期中において最も推進力に貢献しているのは立脚周期の蹴り出しです。
歩行時の推進力低下の原因
歩行時の推進力低下の原因は、状態や障害によってさまざまです。
ここでは、高齢者における歩行時の推進力低下に着目します。
前述のように、歩行周期において立脚周期の蹴り出しが推進力に重要ですが、高齢者の場合、加齢によるさまざまな症状により歩行時の推進力低下が生じます。
では、高齢者の歩行特徴における推進力低下の原因についてご説明します。
歩幅が小さい
若年者と高齢者の歩行を比較した研究によると、若年者は歩行速度の増減を歩幅と歩行率の両方で調節するのに対し、高齢者は主に歩行率で調節することが示されています。
つまり、速く歩きなさいと言われると、若年者は大股かつ歩数を増やすのに対し、高齢者は主に歩数を増やすことだけで速度をあげようとしていると言えます。
すなわち、高齢者は歩幅を大きくせず小さいままの歩行であるため、推進力低下が生じているのです。
スイング速度が遅い
若年者の正常な姿勢の場合、足の振り出しは振り子のような作用によって足が前に振り出されることから、足を前に出すための力をあまり大きく必要としません。
しかし、高齢者になると円背傾向となり、前かがみの姿勢をとりやすくなります。
そうなると、努力して足を前に振り出す必要があるため、足を持ち上げるための筋力が必要となり、スイング速度が遅くなり、推進力低下が生じます。
クリアランスの低下
高齢者はクリアランス低下によって、すり足歩行になりやすいと言われています。
足を持ち上げる能力が低下することにより、歩幅が小さくなり、推進力が低下します。
歩行時のクリアランス低下の原因は、足関節、膝関節、股関節、体幹という連続的な関節の動きの不十分さによって生じます。
歩行時の推進力低下の予防方法
高齢者における歩行時の推進力低下を、どのように予防すれば良いのでしょうか。
歩行時の推進力低下の予防方法として、①体力向上トレーニングの実践と、②意識的な歩行運動の実践の2つをご紹介します。
体力向上トレーニングの実践
上述した、歩行時の推進力低下の原因となる高齢者の歩行特徴から考えられる、機能障害レベルの問題は何でしょうか。
一般的には、下肢筋力(体幹・大殿筋や中殿筋などの股関節周囲、膝関節周囲、足関節周囲、足趾把持)の低下、バランス能力の低下および関節可動域の低下などが報告されており、これらが複合的に絡み合ったものであると考えられます。
つまり、これらの問題に対してトレーニングを実践することが予防方法と言えます。
意識的な歩行運動の実践
高齢者の意識歩行による歩行運動の変化を調査した研究によると、「歩行の速度を速くする」か「歩幅を広くする」ことを意識すると、どちらも蹴り出し力が強く働き、下肢の関節可動域が増大して歩幅の大きい歩行となり、足腰を鍛えて歩行能力を高めることができると報告しています。
また、高齢者の歩行運動の特徴である歩幅が小さいこと、クリアランス低下、前かがみ姿勢などの特徴を改善するための訓練方法として、足底部の圧力中心の移動軌跡をイメージして歩く「足圧認識歩行」を提案している研究もあります。
さらに、歩行時に正しく腕を振ることによって推進力が向上すると言われています。
つまり、「歩幅を広くする」「足圧を認識する」「腕を正しく振る」ことが推進力低下の予防になります。
高齢者のクリアランス低下を改善し、歩幅を大きくして歩行時の推進力低下を予防するために背屈促進ソックスAYUMI ASSISTも効果的です。
歩行時の推進力低下を評価する方法
歩行の推進力を測る指標として、歩行速度、歩幅、歩行率(1分間の歩数)があり、高齢者の歩行速度についての平均と計算の仕方を参考に、計測することが出来ます。
また、歩行時の推進力低下をより詳細に計測できる歩行解析デバイス AYUMI EYEでは、歩行速度と歩幅、そして上下加速度標準偏差の値から、客観的な数値をもって評価・分析することが可能です。
AYUMI EYEの再現性を検討した研究(論文)において、歩行能力を客観的かつ容易に測定できることが証明されています。
まとめ
歩行時の推進力低下の原因と予防方法について、高齢者の歩行を中心にご紹介致しました。
歩行時の推進力低下がなぜ生じるのか、そして、歩行時の推進力低下の予防方法2つについてご理解頂けたと思います。
明日からの臨床での歩行分析に活かしていきましょう。
〈参考文献〉
1)柳川和優.高齢者の歩行動作特性.広島経済大学研究双書第30冊(2008年)
2)畠中康彦.歩行分析・動作分析のグローバル・スタンダード.理学療法学第40巻第8号567~572頁(2013年)
3)江原義弘.歩行分析の基礎.日本義肢装具学会誌.Vol.28 No1 2012
4)伊藤太祐.歩行解析デバイスAYUMI EYEの再現性の検討.日健康医誌,7(2):14~19,2019