頚椎症性脊髄症による歩行の特徴として、「ぎこちない」「足がもつれる」「ふらつく」「つまづく」など、漠然とした言葉で表現されている記事を散見します。
しかし、“なぜふらつくのか” “どのようにぎこちないのか” まで掘り下げて捉えるのが歩行分析であり、それを治療に繋げるのが理学療法です。
その “なぜ” “どのように” を解決するため、頚椎症性脊髄症の歩行分析に関する研究論文を参照し、この記事にまとめました。
また、病態、原因、治療については、頚椎症性脊髄症の診療ガイドラインを参考にまとめました。
頚椎症性脊髄症による歩行の特徴、原因、治療について一緒に学んでいきましょう。
頚椎症性脊髄症とは
頚椎脊柱管の狭い状態に、経年的な頚椎の変化(後方骨棘、椎間狭小化と後方膨隆)と頚椎の前後屈不安定性や軽微な外傷が加わって脊髄麻痺を発症する疾患の総称です。
欧米人と比べて脊柱管が狭い日本人に多いです。
臨床症状は、脊髄への圧迫の程度(変形性頚椎症の骨・椎間板病変の進行)によりその重症度は異なりますが、両上肢のみの初期から四肢不全麻痺へと進行する例が多いです。
頚椎症性脊髄症の診断の目安
■症状
四肢の痺れ感(両上肢のみも含む)、手指の巧緻運動障害(箸が不自由、ボタンかけが不自由など)、歩行障害(小走り、階段の昇降困難など)、膀胱障害(頻尿、失禁など)のいずれかを認めるもの
■症候
障害高位での上肢深部腱反射低下、それ以下での亢進、病的反射、myelopathyhandを認めるもの
■画像診断
・単純X線で、椎間狭小、椎体後方骨棘、発育性脊柱管狭窄を認めるもの
・単純X線でみられる病変部位で、MRI、CT、または脊髄造影像上、脊髄圧迫所見を認めるもの
→診断の目安として症状、症候より予想される脊髄責任病巣高位と画像所見の圧迫病変部位が一致する
■除外項目
・頚椎後縦靱帯骨化症、椎間板ヘルニアによる脊髄症および頚椎症性筋萎縮症は除外する
・脳血管障害、脊髄腫瘍、脊髄変性疾患、多発性末梢神経障害が否定できる
※頚椎症性脊髄症診療ガイドライン2015より抜粋
高齢者の頚椎症性脊髄症の臨床的特徴
障害高位がC3/4、C4/5のことが多いです。
罹患期間が長いため術前の神経症状の重症例が多く、手術成績が非高齢者より劣ります。
椎体滑りなどの不安定性が、非高齢者よりも強く病態に関与しています。
頚椎症性脊髄症による歩行の特徴
頚椎症性脊髄症による歩行の特徴である「ふらつき」「つまづき」について考えましょう。
頚椎症性脊髄症では、痙性もしくは失調性の歩行障害を呈するといわれています。
以下のような特徴が認められます。
・重症度の違いによって歩行の特徴が変わる
・脳卒中の麻痺側と同様の痙性パターンを示す
・痙性歩行の代償として歩行を安定させるために、速度低下、歩幅減少が生じている
・立脚相が70%を超えると転倒リスクが増加する
・遠位筋の麻痺を代償するために、股関節伸展筋群が過活動となり推進力を補っている
頚椎症性脊髄症になる原因
静的圧迫因子
中・高年における頚椎椎間板の変性に起因する椎間板の後方膨隆や椎体骨棘などにより脊柱管は狭くなりますが、さらに発育性の脊柱管狭窄を伴う場合には、脊髄が圧迫を受けやすくなり、頚椎症性脊髄症を発症します。
発育性脊柱管狭窄を合併すると臨床的にも症状が早期に発現しやすく、しかも下位頚椎が病変高位となる頻度が高いです。特に比較的若年者に生じる頚椎症性脊髄症は下位頚椎が責任病巣高位であることが多いです。
動的圧迫因子(不安定性)
加齢による椎間板の変性・狭小化に伴い、靭帯の弛緩や椎体の滑りなどの不安定性を生じ、特に頚椎の後屈運動において椎体は後方へ滑り、この椎体後縁と下位の椎弓縁により脊柱管は狭窄され、脊髄は圧迫されやすくなります。
また、不安定性を伴う場合の罹患期間は、伴わない場合よりも短いと報告されています。
治療について
軽症の場合
軽症例には、まず保存療法が適応されます。
保存療法として、薬物療法、装具療法(カラーによる頚部外固定)、頚椎牽引療法、日常生活における頚部肢位のアドバイスなどの生活指導、等尺運動などがあります。
【エビデンス】
・頚椎持続牽引療法、装具療法は軽症例に対し、短期的には有効な治療法です。
・頚椎間欠牽引療法についてはエビデンスがありません。
・薬物療法が脊髄症状に対してどの程度有効であるか、十分なエビデンスはありません。
・代替療法(鍼、灸、マッサージ、整体、カイロプラティック)が有効であるというエビデンスはありません。
いったん脊髄麻痺症状が出現すると保存療法に反応しにくく手術が行われることが多いです。手術のタイミングが遅れると脊髄の回復力が劣り、症状が改善しにくくなるといわれています。
したがって、生命予後が不良でないからと言って、安易にかつ長期にわたり、漠然と保存療法を続けることは患者のQOLを損なうことになります。
重症の場合
進行性、あるいは長く持続する脊髄症、軽症でも保存療法で効果がなく脊髄圧迫の強い青壮年者は手術療法が検討されます。
高齢者でも、周術期合併症に注意すれば手術適応となります。
手術は、前方法(前方除圧固定術)、後方法(椎弓形成術)があります。
重度の症例において、手術をすると良好に改善するのに対し、保存療法では悪化傾向がみられるという報告があります。
また、罹患期間と術前重症度は予後(手術効果)と相関する可能性も報告されています。
後方法では、術後合併症として頚椎の可動域制限が問題視されていますが、術後の装具装着期間を短縮することで可動域制限が改善されることも報告されています。
<参考文献>
(1)日本整形外科学会、日本脊椎脊髄病学会(2015)頚椎症性脊髄症診療ガイドライン2015 改訂第2版 南江堂 2015年4月20日発行
(2)高井信朗(2014)全部見えるスーパービジュアル整形外科疾患 成美堂出版 2014年12月発行
(3)Matsunaga Shunji(2008) Radiographic Predictors for the Development of Myelopathy in Patients With Ossification of the Posterior Longitudinal Ligament : Spine : November 15 , 2008 , Volume 33 , Issue 24,p2648-2650
(4)Yasuhisa Maezawa(2001) Gait analysis of spastic walking in patients with cervical compressive myelopathy:Journal of Othopaedic Science:volume6,Issue5,September2001,page378-384
(5)Hirosuke Nishimura (2015) Gait Analysis in Cervical Spondylotic Myelopathy : Asian Spine J 2015;9(3):321-326
(6)Ailish Malone (2012) Gait impairment in cervical spondylotiv myelopathy:comparison with age-and gender-matched healthy contrils:Eur Spine J (2012)21:2456-2466
まとめ
頚椎症性脊髄症による歩行の特徴、病態、原因、治療についてご紹介させて頂きました。
中でも、歩行周期の相における症状の特徴、転倒との関連に関しては、客観的な歩行評価として理学療法に生かせるポイントです。
明日からの臨床に役立てて頂けると幸いです。