けがや病気によって、それまでと同じように歩くことが難しくなる場合があります。
しかし、リハビリテーション医療(以下、リハビリ)の重要性が浸透し、歩行の再獲得に向けたリハビリが盛んに行われるようになりました。
では歩行機能の再獲得ではどのような経過をたどり、どのくらいの期間のリハビリに必要なのか。
今回は歩行機能の再獲得に向けたリハビリについてお話ししたいと思います。
リハビリのゴールとは?
リハビリの期間を考える場合、目標やゴールをどこに設定するかが重要になります。
リハビリテーションの語源であるrehabilitateという英単語には、心身の良好な状態を取り戻すだけでなく、失った地位や名誉の回復といった意味も含まれており、リハビリテーションのゴールは運動機能のみではなく「全人的復権」を指します。
つまり、けがをした人がただ歩けるようになるだけではなく、仕事や趣味を含めけがをする前と同等の生活を送ることができるようになるまでがゴールとなり、病院等で行われるものだけがリハビリではありません。 リハビリは一生涯続くと言っても過言ではありません。
ただ、それは理想論です。
ここでは手術やけがの前に可能な限り近づくまでの現実的な経過を解説させて頂きます。
整形外科の場合
人工関節のリハビリの場合
変形性関節症に伴う関節痛や変形に対して、良好な成績を収めているのが人工関節による治療です。
わが国では人工膝関節手術が年間約10万件、股関節手術が約7万件行われており多くの患者さんが手術後に歩行再獲得を目的としたリハビリを実施しています。
このうち人工膝関節手術について、全国を対象としたアンケート調査の結果、入院期間が2~3週間、歩行リハビリの開始は手術翌日とする施設が最も多くなっています。※1
まずは平行棒を用いて両手の力を借りながら歩行練習を開始し、手術による痛みや腫れが落ち着いてくるのに伴って歩行器や杖の練習を行います。
その後、おおよそ2週間程度で1本杖だけで歩けるようになります。※2
その後は自宅などで歩行練習をすることで以前のように歩けるようになります。
単純骨折のリハビリの場合
転倒転落や事故により、骨盤や足の骨を骨折した場合も歩行が困難となります。
骨折に対する治療には大きく分けて手術を伴う観血的治療と手術を伴わない保存治療がありますが、どちらの場合でも骨折の部位や程度によってその後のリハビリ期間は変わってきます。
骨が見かけ上元通りにくっつくまでには4~8週を必要としますが、普段体重を支えている骨に荷重による刺激が全く入らないと骨自体が痩せて脆くなってしまうため、骨がくっついていない時点から少しずつ体重を加える部分荷重というリハビリが行われます。
松葉杖を使いながら骨折した部位への荷重を徐々に上げていき、同時に筋トレを行なうことで失われた筋力を取り戻し、最終的には杖なしで歩くようになります。
部分荷重の開始期間はどう骨折していたか、手術での固定力がどうか、など様々な要素が関与するため、一概に期間を提示することはできません。
ただ、目標はしっかりと骨がくっついた段階では全荷重を行っても支えられる筋力・歩行機能を獲得していることです。
つまり、8週程度でリハビリが終わることが目標です。
高齢者の骨折のリハビリの場合
高齢者に多い股関節周囲の骨折や背骨の骨折においても、基本的治療方針は変わりません。
しかしながら、加齢に伴いそもそもの歩行能力が低下していたり、手術後の体力の低下などで長い時間ベッドで過したりするとそのまま歩けなくなってしまう恐れがあります。
そのため手術・受傷後の早い段階から歩行練習が開始されます。 膝を伸ばす筋力が強いことなどが歩行の再獲得に関係すると報告されており、その筋力を鍛えるリハビリを重点的に行うこともあります。※3
しかし、1番大事なことは日頃から運動し、骨折してもすぐにリハビリができる筋力を維持することを意識することです。
リハビリと同時にその意識づけをすることも高齢者のリハビリではとても重要です。
脳血管障害の場合
歩行が障害される疾病の中でも大きな割合を示すのが、脳血管障害いわゆる脳卒中です。
脳の血管から出血したり、血管そのものが詰まったりすることで脳が損傷され運動麻痺が生じることが主な原因です。
損傷の程度によって、発症後急性期の治療後間もなく歩けるようになり後遺症も残らない場合や歩行の再獲得が望めない場合など様々です。
急性期治療の後にリハビリを行う回復期病棟における研究では、入棟から約一か月のリハビリで病棟内の自立(誰の手助けもなく行えること)した歩行が増加すると報告されています。※4
まとめ
今回は歩行機能が一度失われた後に再獲得するためのリハビリの概要・期間を大まかに説明させて頂きました。
しかし、患者によって・怪我の程度によって当然リハビリの進み具合・期間は変わってきます。 リハビリのタイミング・期間を考える上で重要なことは現在の機能を客観的に評価することです。
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※1 飛山ら.人工膝関節置換術前後のリハビリテーションプロトコルの実施状況と内容に関する全国調査.理学療法学.2021
※2 白井ら.人工膝関節全置換術後の歩行能力回復に関する予測因子.Jpn J Rehabil Med.2011
※3 柴本ら.大腿骨近位部骨折患者の退院時の歩行自立度に関連する因子の検討-パイトロットスタディ.2022
※4 林ら.回復期リハビリテーション病棟における脳卒中片麻痺患者の歩行自立までの期間予測.理学療法学.2019
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